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材料の曲げ強度が引張強度の1.5倍程度になるのは何故か?

樹脂材料のデータシートを見ていると「引張強度は50MPaなのに、曲げ強度は75MPaもあるってどういうこと?」このような疑問を持ったことがある方は少なくありません。実際、多くの材料では曲げ強度が引張強度よりも高くなる傾向があります。特にセラミックスなどの脆性材料では、曲げ強度が引張強度の1.5倍~2倍になることも珍しくありません。

では、なぜこのような違いが生じるのでしょうか?この記事では、その理由を力学的・材料的な視点から解説します。


曲げ強度と引張強度の違いとは?

まず、両者の定義を簡単に整理しておきましょう。

  • 引張強度(Tensile Strength):材料に一様な引張荷重を加え、破断するまでに耐えられる最大応力。

  • 曲げ強度(Flexural Strength):3点または4点曲げ試験において、試験片が破壊する際の最大曲げ応力


曲げ強度の代表的な計算式(3点曲げ):

曲げ強度の代表的な計算式

曲げ応力は材料の一部に集中する

曲げ試験では、材料の上下に引張と圧縮が同時に発生します。断面の中立軸を境に、上側は圧縮、下側は引張応力となります。

特に注目すべきは:

最大応力がかかるのは表面層だけ中立軸に近づくほど応力は小さく、中心ではゼロになる
3点曲げ試験時の応力分布

つまり、破壊のきっかけとなるのは材料のほんの表面の部分だけです。

一方、引張試験では全体に一様な応力が加わるため、内部欠陥(気泡や微細な亀裂)が破壊を引き起こしやすくなります。

引張試験の破壊メカニズム

このため、同じ材料でも、引張試験では「全身に負担がかかる」一方、曲げ試験では「部分的に高応力だが他の部分が助けてくれる」構造になっているのです。

3点曲げ試験の応力分布②

欠陥の影響と破壊挙動の違い

特に脆性材料では、この差が大きくなります。

  • 引張試験:内部の欠陥が開く方向に引張られ、破壊が加速

  • 曲げ試験:欠陥は表面に限定され、全体の崩壊には至りにくい

この欠陥感受性の違いが、引張強度より曲げ強度の方が高くなる主因です。

理論的な裏付け:Mohr-Coulombの観点

材料の破壊は、最大主応力やせん断応力に基づいて生じると考えられています。Mohr-Coulombの破壊基準においては、破壊が発生する条件は:

クーロンの破壊基準式

この破壊理論によれば、曲げによって生じるせん断応力と主応力の複合状態の方が、純引張よりも**破壊が遅れる(=強度が高い)**条件を満たしやすくなります。


★√3倍?理想脆性体での上限

一部文献では、理想的な脆性体において:

理想脆性体での理論式

とする近似式が紹介されています。

これは、引張とせん断の合成応力状態で破壊が生じると仮定した場合の理論的上限値です。実際の材料ではこれより低く、1.2~1.5倍程度が多く見られます。

材料別の例

材料

引張強度(MPa)

曲げ強度(MPa)

比率

ABS

45

55~60

1.2~1.3

POM

70

90

1.29

PC

60

90

1.50

PPS

95

145

1.53

このように、プラスチックなどでは1.5倍前後の比率が一般的です。


実務的な活用法

設計初期や材料選定時、曲げ強度のデータがない場合には、引張強度に係数をかけて概算するのが実務上有効です。

初期設計の目安式

もちろん、最終設計では実測値やCAE解析に基づく正確なデータが推奨されます。

CAEによる応力計算

まとめ

  • 曲げ試験は応力が局所的 → 引張試験より破壊が起こりにくい

  • 欠陥が破壊に与える影響が曲げでは小さい

  • 理想脆性体では理論的に √3倍まで曲げ強度が高くなる可能性あり

  • 多くの材料で1.2~1.5倍程度の曲げ強度が観測される

曲げ強度が引張強度より高いという現象は、材料力学における応力分布、破壊の発生メカニズム、欠陥の影響といった本質的な特性に由来しています。

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