テーマ:回転軸を有する構造体における拘束条件の設定方法
- SANKO GOSEI
- 2 分前
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製品設計において、実機の挙動を再現した正確な構造解析は、信頼性の高い製品開発の鍵となります。特に、回転軸を持つ構造体では、一般的な解析と異なり、拘束条件の設定に工夫が必要です。この記事では、CAE解析における拘束条件の設定について、回転軸を有するモデルを例に検証し、実用的なノウハウを紹介します。
1. なぜ回転軸の拘束設定が重要なのか?
現代の製品は、単体で完結することは少なく、複数部品からなるアセンブリで構成されていることが一般的です。そのため、CAEによる構造解析でもアセンブリ状態で評価を行う必要があります。しかし、エアコンのフィンなど、回転軸を有する構造体では、正しい拘束条件を与えないと、以下のような問題が発生します。
解析エラーの発生(収束しない)
剛体移動による非現実的な結果
構造的な意味を持たない誤挙動
これらの問題は、回転構造特有の運動を正しくモデル化できていないことに起因します。
2. 従来の固定条件の課題
通常、CAEではモデルの端面や基準面に対して「固定」拘束を設定します。これは「移動も回転もできない」完全拘束であり、剛性評価や変形量の把握に有効です。
しかし、回転運動を伴う部品に対してこの条件を適用すると、本来は回転すべき部品が動かず、想定とは異なる剛性を示してしまう現象が発生します。
例:両端に軸をもつフィン構造に固定拘束を施すと、両端支持の3点曲げのような挙動になってしまいます。本来回転すべき部品が、固定された梁のように振る舞うことで、誤った設計判断に繋がる危険性があります。
[解析モデル]

[解析条件]

[解析結果]
3. 有効な拘束条件:「円筒支持」の活用
そこで有効となるのが「円筒支持(Cylindrical Support)」の拘束条件です。これは円筒状の接触面において、3つの方向(半径方向・軸方向・接戦方向)それぞれに対し、拘束の有無を細かく設定できる柔軟性を持ちます。
円筒支持の3方向定義
拘束方向 | 意味 | 拘束の影響 |
半径方向(Radial) | 軸の中心から外方向への動き | 回転軸からのズレ防止 |
軸方向(Axial) | 軸に沿った直線的な動き | 押し引きによる変位を制御 |
接線方向(Tangential) | 回転方向への動き | 回転そのものの自由度 |

4. 各方向フリー時の挙動比較
解析では、各方向のうち**一つのみをフリー(自由)**にし、他2方向を拘束する3パターンを比較しました。
ケース①:半径方向フリー
→ 結果:従来の固定条件と同様の3点曲げ挙動となり、回転の自由度は生まれず
ケース②:軸方向フリー
→ 結果:剛体移動が発生し、モデル全体がスライド移動。意図した回転挙動ではない
ケース③:接線方向フリー
→ 結果:フィンが軸を中心に回転運動を再現。実機に近い自然な動きが確認できた。
この結果から、接線方向のみをフリーに設定する拘束方法が、最も現実に即した解析であることが分かりました。
5. 実務での適用ポイント
回転構造のCAE解析を行う際には、以下の手順を踏むことが推奨されます。
①モデル設計者との連携
設計者と解析者の意思疎通が重要です。モデルデータだけでは、設計者の意図や想定運動が正しく伝わらないことがあります。あらかじめ、回転箇所や自由度をヒアリングしておくことが肝心です。
② 拘束条件設定前のモデリング準備
円筒支持を使用するためには、拘束を与える円筒形状の面がモデルに存在する必要があります。必要に応じて、ジオメトリの編集や面抽出を行いましょう。
③ CAEソフトの設定確認
解析ソフトによっては、「円筒支持」の定義が異なる場合があります。接線方向を明示的にフリーに設定できるかを確認し、設定手順に従って拘束を与える必要があります。
6. まとめ:正しい拘束条件設定が解析精度を決める
CAE解析における拘束条件の設定は、設計意図を反映する上で最も重要な要素の一つです。特に回転軸を持つ構造体では、従来の固定拘束では挙動を再現できないことが多いため、**「接戦方向フリーの円筒支持」**を用いた拘束条件設定が非常に有効です。
正しい拘束設定によって、解析結果の精度が高まり、設計や製品信頼性の向上に大きく寄与します。設計者と解析者が密に連携しながら、CAEを使いこなしていくことが、これからのモノづくりに求められる技術力と言えるでしょう。










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