ガス抜きポーラス入れ子の使用における注意点
- SANKO GOSEI
- 7月9日
- 読了時間: 4分
はじめに
近年、射出成形品の形状はより複雑・大型化しており、従来のガスベントでは対応が難しいケースが増えています。こうした中で注目されているのが、ガス抜きポーラス入れ子の活用です。金属3Dプリンターによる造形技術を応用することで、気体は透過するが樹脂は通過できない多孔質構造を持つ入れ子を成形金型内に設けることが可能となりました。
この技術により、これまで不可能だった深リブ形状や高さのある成形品などの成形が現実のものとなり、特に自動車分野での導入が進んでいます。
しかし、便利なこの技術も、正しい理解と適切な設計がなければ、不良の原因となってしまうリスクがあります。本記事では、実際に発生した成形不良の事例を通じて、ガス抜きポーラス入れ子の注意点とその対策について解説します。
ガス抜きポーラス入れ子とは?
三光合成が開発したこの技術では、金属光造形(レーザー焼結)による3Dプリントを用いて、金属粉末をあえて「半溶融状態」で焼結させ、多孔質構造を生成します。この構造により、金型内部に発生した空気やガスは排出されますが、樹脂は通過できないという性質を持ちます。


この仕組みは、従来のガスベント(極細スリットなど)と異なり、「広範囲にわたってガス抜きエリアを設けられる」「自由曲面にも対応できる」など、設計の自由度と機能性を大幅に向上させることができます。
成形不良が発生した事例
使用ケース:自動車バンパー部品
自動車用バンパーの金型において、成形時に**エアトラップ(空気だまり)とウエルドライン(樹脂の合流痕)**の発生が予測されました。これらは外観不良を引き起こす原因になります。これを防止する目的で、ガス抜きポーラス入れ子が金型に組み込まれました。
設計では、「エアトラップ位置が成形毎に変動する」との想定のもと、高さ方向にもわたって広い面積にガス抜き構造を設けていました。
問題の発生:擦れによる外観不良
しかし試作段階で、成形品の取り出し時に金型との擦れが発生し、製品表面にキズ(擦れ痕)が残るという不具合が確認されました。

その原因を追及した結果、次のような事実が判明しました:
立壁部(縦方向の壁面)にも多孔質構造を設けていた
型開き時、立壁のポーラス層にわずかに流れ込んだ樹脂が抜き方向に対して斜めに引き抜かれる
その際に、成形品と入れ子が強く擦れ、外観不良となるスレが発生した
つまり、ポーラス層が「ガスは抜くが樹脂は通らない」構造とはいえ、完全な密閉性を持つものではなく、微細な入り込みが起こるケースもある、ということです。
対策:立壁部の構造を変更
この問題に対し、三光合成ではガス抜き入れ子の設計そのものを見直すことで対応しました。
対策内容
立壁部のみ「ソリッド(完全溶融)」構造に変更
ガス抜きが必要な面のみ多孔質構造を維持
3Dプリンターによるエリアごとの造形条件変更により、ひとつの入れ子内に「多孔質」と「ソリッド」を共存させる設計を実現

この修正により、問題となっていた擦れ痕が解消され、量産においても安定した品質が確保できました。
注意点と推奨事項
1. ポーラス部の配置は「抜き方向」を意識する
抜き方向の壁にポーラスを設けると、樹脂の入り込み→擦れ・変形の原因になる可能性があります。原則として、ガスが流れる方向=ガス抜き方向に対して、ポーラス面を直交させる配置が望ましいです。
2. すべての面をポーラス化しない
多孔質入れ子=ガス抜き性能を最大限にしたい、という考えで全面をポーラス化すると、不要な箇所から樹脂の浸入・ガス漏れが起こることがあります。ガス抜きが必要な面に限定してポーラス構造を設けるのが基本です。
3. 3Dプリンターでのエリア分割を前提とした設計
従来の焼結金属部品では、部位ごとに構造を変えることが難しかったですが、**金属光造形(3Dプリント)**であれば、レーザー出力や走査速度を制御することで部分ごとに構造を変えることが可能です。これを活用して、最適化された構造設計を行うことが重要です。
まとめ
ガス抜きポーラス入れ子は、成形時のガス溜まり・ヤケ・ウエルドラインといったトラブルを解決する、非常に有効な手段です。しかし、構造や配置を誤ると、かえって外観不良や成形不良の要因となってしまう可能性があります。
本記事で紹介したように、**「抜き方向を考慮する」「ポーラス面を限定する」「エリア制御造形を活用する」**など、基本的な注意点を押さえた設計が重要です。
今後、3Dプリンター技術と解析技術がさらに発展することで、より高度な金型設計が可能になると期待されます。その第一歩として、ポーラス入れ子の正しい使い方を理解し、最大限の性能を引き出すことが求められています。