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イエプコ表面改質処理による硬質クロムメッキの改質

1. はじめに

金型や部品の長寿命化、耐腐食性、離型性向上のために多用される硬質クロムメッキ(HCr)。その表面は一見美しく滑らかに見えますが、実は無数のマイクロクラックやメッキこぶが存在しており、成形時のトラブル原因になることが少なくありません。

クロムメッキされている商品

こうした課題に対し、注目を集めているのがイエプコ(IEPCO)表面改質処理です。スイス製の表面改質装置を用いたこの処理は、メッキやコーティング前後に施すことで密着性、滑り性、耐久性を劇的に向上させることができる技術です。

本稿では、4つの技術資料をもとに、イエプコ処理がもたらす効果や適用事例、技術的背景についてわかりやすく解説します。


2. HCrメッキの課題とイエプコ処理の意義

● 表面の微細欠陥が引き起こす問題

HCrメッキは機能性に優れた表面処理ですが、その内部には残留応力があり、肉眼では見えない「マイクロクラック」が無数に形成されています。また、メッキ中に生成される**こぶ状の析出物(メッキこぶ)**や、母材表面の加工バリ・カエリもメッキのトラブル原因です。

これらが引き起こす代表的な問題は以下の通りです:

  • 成形品へのデポジット(汚れ)付着

  • 離型不良(樹脂やゴムが型にくっつく)

  • 腐食性ガスの侵入 → 母材腐食

  • メッキ剥離の促進


3. イエプコ表面改質処理のメカニズムと工程

イエプコ処理は主に2ステップの工程から成り立ちます:

① クリーニング工程(例:MS300A)

イエプコ処理のクリーニング工程
  • 不定形で角のある粒子を金属表面に吹き付け、メッキこぶや加工変質層、汚れ、微粒子などを除去します。

  • 加工バリやカエリもこの時点で取り除かれ、滑らかで安定した下地を作ります。

② ピーニング工程(例:MS550B)

イエプコ処理のピーニング工程
  • 球状の微粒子を高速で打ち付け、マイクロクラックを物理的に閉塞させます。

  • 同時に滑り性を向上させる表面微細構造を形成。これが離型性と耐久性の向上に直結します。


4. 処理前後での変化と観察結果

イエプコ処理前と処理後でHCrメッキ表面を比較したところ、以下のような明確な差が見られました

項目

処理前

処理後(イエプコ)

表面状態

メッキこぶ、微細クラックが多数存在

平滑でクラック閉塞、異物なし

離型性

デポジット付着あり、離型不良多い

滑り性良好、離型トラブル低減

耐食性

クラックから腐食進行

クラック閉塞で腐食進行抑制

メッキ剥離

母材の欠陥が影響しやすい

欠陥除去により密着性向上

研削面処理前と処理後
メッキ面のイエプコ処理前と処理後
イエプコ処理前と後 断面の違い

特に、断面観察でクラックが閉塞されている様子が確認されており、これは耐久性や離型性に直結する重要な成果です。


5. コーティング剥離への応用:母材を傷めず再生可能

イエプコ処理の応用範囲はメッキ改質だけにとどまりません。

PVDやCVDなどの硬質コーティングの剥離にも効果的です。

硬質コーティングのイエプコ処理

例えば、Tinコーティングが施された超硬金型を再コーティングする際、従来は「剥がせない=廃棄」という判断がされることも多くありました。しかしイエプコ処理では:

  • 母材をほとんど傷めず(最小ダメージ1μm以下)

  • 数秒で剥離が可能

  • 剥離後の再コーティング下地としても最適

という利点があり、廃棄していた金型の再利用が可能になる=コスト削減&SDGs対応にも貢献する技術です。


6. メッキ・コーティング前後における最適な活用

● メッキ前処理

イエプコ処理をメッキ前に施すことで、以下の効果が得られます:

  • 母材表面の不安定層・加工変質層の除去

  • クラックやピンホールの排除

  • メッキとの密着性向上

  • 処理後もメッキ乗りが良い(ピーニング処理を適切に選択)

● メッキ後処理

HCrメッキの課題である微細クラックやメッキこぶの除去、クラック閉塞、滑り性付加のために、メッキ後にもイエプコ処理を施すことが推奨されます。

これにより以下の効果が期待できます:

  • 離型性の大幅向上

  • デポジット付着の低減

  • メッキの寿命延長とトラブル抑制


7. 総合的な技術評価と今後の展望

イエプコ表面改質処理は、以下の理由で有効なメッキ・コーティング支援技術です:

  • メッキの欠点(クラック・こぶ・剥離)を非破壊で修正可能

  • 事前・事後の両方に処理を適用できる

  • 金型の再利用や性能向上によるコスト削減と環境負荷低減

また、HCr以外にもDLCやTiN、CrNなどのコーティング、Niメッキ、無電解メッキなどにも応用可能で、ほぼすべてのメッキ系・コーティング系表面に対応しています。

今後は、IoTや精密加工分野など、より高精度で再現性の高い表面性状が求められる分野での応用も期待されます。


8. まとめ

硬質クロムメッキの表面欠陥に起因するトラブルは、製品の品質だけでなく、金型や設備の寿命にも大きく影響します。イエプコ表面改質処理は、こうした根本的課題に対して非破壊・高効率・高精度に対処できる革新的なソリューションです。

「見えないトラブルは、見える処理で防ぐ」――その言葉通り、イエプコ処理は成形現場における“見えない安心”を支える技術として、今後さらに広く採用されていくことでしょう。

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