エジェクタブロックジョイント部 加工改善による工数削減
- SANKO GOSEI
- 9月24日
- 読了時間: 5分
はじめに
エジェクタブロックは、成形品を金型から取り出すための重要な部品であり、近年のハイサイクル化や製品の薄肉化の影響を受け、大物成形品の場合1型あたりの使用数は40~120個と増加傾向にあります。

特に自動車部品のような裏面に多数の補強リブを持つ内装型では、その傾向が顕著です。
その結果、エジェクタブロックの加工工数も大幅に増加しており、コストダウンとリードタイム短縮を図るためには、加工方法の見直しが必要不可欠となっています。本稿では、エスバンス株式会社 加工技術Gによる「エジェクタブロックジョイント部 加工方法改善」について、その背景、課題、改善内容と成果を詳述し、他業種への応用可能性についても考察します。
エジェクタブロックとは
金型から製品を離型させるためのブロックです。
傾斜ブロックの場合、製品形状にアンダーカットがあっても
ブロックごと突き出すことでアンダーカットを処理することができます。


背景と課題
1. ジョイント部の加工がボトルネック
エジェクタブロックの加工は通常、**無人加工(NC加工)**が主流ですが、「ジョイント部(ネジ・ノックピン穴)」の加工は高精度が求められるため、有人加工に頼らざるを得ませんでした。
ジョイントには以下の2種類があります:
ねじ込みジョイント(社内標準)
タップ加工が中心で、むしれ等の不良が発生しやすい
加工不良時には再製作が必要
作業は有人で、夜間・休日の無人運転が不可能
ノックピンジョイント(顧客仕様)
荷重がかかる部分であり、嵌合精度が非常に重要
従来はブロックとピンを組み合わせた共加工が必要
工程が複雑化し、設備稼働率が低下
このように、いずれのジョイント方式も作業時間の増加、コスト増、機械稼働率の低下といった課題を抱えていました。
改善の狙いと方針
目標値(コスト削減)
ねじ込みジョイント:
加工費:年間約607.5万円
目標:60%削減(360万円/年)
ノックピンジョイント:
加工費:年間約187.9万円
目標:40%削減(75.1万円/年)
改善方針
ねじ込みジョイント
全自動化(無人加工)の実現
新工具(スレッドミル)の導入でタップ加工を置き換え
CAMデータによる連続加工
ノックピンジョイント
ブロック・ピンの単品加工化
NC複合旋盤・5軸MC機の活用で共加工を廃止
先端径の統一・基準化
具体的な改善内容
1. ねじ込みジョイントの改善
従来のタップ加工は、切削油の手動注油が必要で、むしれが頻発していました。
これをスレッドミルに変更することで、水溶性切削液の自動供給+切りくずの排出性の向上を実現。さらに、CAMデータによる一括連続加工が可能となり、完全無人加工を達成しました。

課題として、工具径補正値と実加工精度のギャップがあり、多数のテスト加工により最適値を決定。また、下穴加工の精度が問題となり、ドリルからミーリング加工へ切り替えました。
2. ノックピンジョイントの改善
ブロックピン側
材料径のバラつき(最大0.06mm)を吸収するため、先端を一律 -0.1mm削り出しし、嵌合基準を明確化。
NC複合旋盤により、先端面~座面加工~穴加工まで一連の自動化。
ブロック側
従来のような実ピンに合わせた現物加工を排除。
3軸MC加工機にて段取り変更不要で、ピン穴まで含めて全自動加工。
加工時間の大幅短縮と、工程の簡略化を実現。
改善中の課題とその克服
・スレッドミルの嵌合調整
実工具径と理論値のズレにより嵌合が固くなる現象。加工機ごとのテストで補正値を見極め対応。
・ノックピンの嵌合精度
荷重のかかるエリアであり、嵌合「強すぎ/弱すぎ」の調整が必要。先端当たりの微調整を繰り返し、最適位置を特定。
・3軸MC加工機への展開
5軸では問題ない加工精度も、3軸MC機ではテーブル回転誤差により不具合発生。水平確認方法の見直しと許容値設定で対応。

成果と効果
◆ ねじ込みジョイント
年間削減額:4,212,000円
無人加工化による夜間運転の活用
再製作リスクの大幅低減
機械停止時間の削減(夜間・休日の稼働率向上)
◆ ノックピンジョイント
年間削減額:1,005,000円
共加工の廃止により設備稼働率UP
必要部品単品での製作が可能に
加工時間:25分 → 11分/本(約56%削減)
今後の展望
本改善は、エジェクタブロックのみにとどまらず、今後は以下への展開が期待されます:
他の設備(3軸MC、複合旋盤等)への応用
金型本体や突出板、取付板などの結合穴加工への適用
社内標準加工フローへのフィードバックと全社展開
まとめ
今回の改善活動では、「ねじ込みジョイントの無人化」「ノックピンの単品加工化」を実現し、約520万円/年に相当する工数削減を達成しました。この成果は単なるコストダウンにとどまらず、加工の安定性向上、リードタイム短縮、トラブル低減、設備稼働率の向上といった多面的な効果を生み出しています。
エジェクタブロックという一見単純な構成部品でも、その加工プロセスを見直すことで大きな改善が可能であることが証明された事例です。今後の金型設計・加工現場においても、今回の取り組みが一つのロールモデルとなることを期待します。
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