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DMA(動的粘弾性測定)とは?E'・E''・tanδのグラフの読み方と樹脂部品設計への活かし方

1 日前
読了時間: 12分

DMA(動的粘弾性測定:Dynamic Mechanical Analysis)とは、材料に小さな周期的な変形(振動)を与え、返ってくる力の大きさと遅れから、材料の「硬さ(弾性)」と「ねばり(粘性)」を分けて測る試験です。温度を変えながら測ることで、樹脂が何℃でどれだけ柔らかくなるか、ガラス転移温度(Tg)はどこかを連続的に把握できます。

「常温では十分硬いのに、夏場の車内ではたわんでしまう」といった問題は、常温のカタログ値だけでは予測できません。この記事では、射出成形品の設計・製造に携わる立場から、次の点を解説します。

  • DMAで得られるE'・E''・tanδの意味

  • 温度曲線のグラフの読み方と、Tgの3つの定義

  • 測定条件によって結果が変わる理由

  • DSC・荷重たわみ温度・引張試験などとの使い分け

  • 材料選定や製品設計への活かし方


DMA(動的粘弾性測定)とは

樹脂は「弾性」と「粘性」の両方を持っている

バネのような理想的な固体は、力を加えるとすぐに変形し、力を抜くと元に戻ります。これが弾性体です。

バネの画像

水あめやオイルは、力を加えるとゆっくり流れ、元の形には戻りません。これが粘性体です。

水あめの画像

プラスチックはその中間で、一部はバネのように元に戻ろうとし、一部は遅れて変形します。この性質を粘弾性といいます。しかも、そのバランスは温度や変形の速さで大きく変わります。粘弾性の基礎は「樹脂の粘弾性について」でも解説しています。


DMAの原理:力の「遅れ」を測る

DMAでは、試験片に一定の周波数(例:1Hz)でごく小さな正弦波の変形を与え、そのとき生じる力(応力)を測ります。変形は材料を壊さない範囲に抑えます。

完全な弾性体では、変形と力は同じタイミングで変化します。樹脂では分子鎖の動きや内部摩擦のため、力の波形が変形に対して少しずれます。このずれを位相差(δ)といい、完全な弾性体では0°、完全な粘性体では90°になります。

位相差の波形

力の大きさと位相差から、次の章で説明する3つの指標を計算します。測定方法は、JIS K 7244シリーズ(ISO 6721)やASTM D4065などで規定されています。


DMAで得られる3つの指標:E'・E''・tanδ

DMAの結果は、主に次の3つの値で表されます。引張や曲げのモードではE、せん断やねじりのモードではG(G'、G'')の記号を使います。

指標

意味

値が大きいと

設計での使い方

貯蔵弾性率 E'(Pa)

変形のエネルギーのうち、バネのように蓄えられて戻る成分

硬く、変形しにくい

使用温度での剛性、たわみの見積もり

損失弾性率 E''(Pa)

変形のエネルギーのうち、内部摩擦で熱として失われる成分

分子の動き(緩和)が活発

転移・緩和が起きる温度の把握

損失正接 tanδ(無次元)

E''÷E'。弾性に対する粘性の割合

振動を吸収しやすい(減衰性が高い)

Tgの把握、制振・防音材の評価

式で表すと、応力の振幅をσ₀、ひずみの振幅をε₀、位相差をδとして次のようになります。


関連式

貯蔵弾性率の違い

注意したいのは、tanδが大きいことが必ずしも「良い」とは限らない点です。振動を吸収したい部品でも、必要な剛性(E')が保たれているかを合わせて確認します。弾性率と強度の違いは「用語解説:材料物性における「弾性率」と「強度」とは」をご覧ください。


DMAグラフの読み方

DMAの結果は、横軸を温度、縦軸をE'・E''(対数目盛り)とtanδにしたグラフで示されます。数値を一つ拾うだけでなく、曲線の形から材料の性格を読み取ることが大切です。


温度とE'の曲線:3つの領域

非晶性の樹脂を低温から昇温していくと、E'の曲線はおおむね次の3つの領域に分かれます。

  1. ガラス状領域:E'が高く、温度が上がっても緩やかにしか下がりません。非強化の樹脂では、概ねGPa(10⁹Pa)オーダーです。

  2. ガラス転移領域:分子鎖が動き始め、E'が急激に下がります。ここでE''とtanδがピークを示します。非晶性樹脂では、E'が2~3桁低下することもあります。

  3. ゴム状領域:E'が低い水準で平坦になります。架橋していない熱可塑性樹脂では、さらに温度を上げると流れ始め、試験片の形が保てなくなります。熱硬化性樹脂やエラストマーでは平坦部が続き、その高さが架橋密度の目安になります。

設計のためにグラフを読むときは、次の順に確認すると分かりやすくなります。

  1. 製品の使用温度範囲(例:−30~85℃)をグラフ上に縦線で引く

  2. その範囲のE'を読み、常温(23℃)の値に対して何%になるかを確認する

  3. E'が下がり始める温度と、使用温度の上限との余裕を確認する

  4. tanδのピークの位置・高さ・幅を、比較したい材料と見比べる


Tgは「どこで読むか」で値が変わる

DMAではTgの読み取り方が主に3つあり、同じデータでも値が異なります。一般に、低い順に「E'の低下開始点 < E''のピーク < tanδのピーク」となり、その差は材料や条件によって数℃から十数℃以上になることがあります。

読み取り方

位置

意味合い

向いている用途

E'の低下開始点(外挿開始温度)

3つの中で最も低温

剛性が下がり始める温度

構造部品の使用上限温度の検討(安全側)

E''のピーク

中間

分子運動によるエネルギー損失が最大

分子構造の議論、材料間の比較

tanδのピーク

3つの中で最も高温

弾性に対する粘性の割合が最大

制振性の評価、文献値との比較

材料メーカーのデータや文献を比べるときは、どの定義のTgかを必ず確認してください。定義が違う値どうしを比べると、材料の優劣を誤って判断するおそれがあります。


結晶性樹脂と非晶性樹脂では曲線の形が違う

  • 非晶性樹脂(PC、ABS、PMMAなど):Tgを超えるとE'が大きく下がるため、Tg付近が実質的な使用上限になります。

  • 結晶性樹脂(PP、PA、POM、PBTなど):Tgを超えても結晶部分が骨格となり、E'は段階的に下がりながらも保たれます。融点に近づくと急激に低下します。Tgに当たるtanδのピークは、非晶性樹脂より小さく現れるのが一般的です。

このため、結晶性樹脂では「Tgを超えたから使えない」とは限りません。使用温度でのE'の値そのもので判断します。


ガラス繊維・吸水・熱履歴で曲線はどう変わるか

  • ガラス繊維(GF)強化:E'が全体に高くなり、特に結晶性樹脂ではTgより高温での剛性の保持が大きく改善します。ただし、流動方向と直角方向では繊維の向きが違うため、E'に差が出ます。繊維配向については「GF強化樹脂の「収縮」と「繊維配向」の関係」で解説しています。


  • 吸水:ポリアミド(PA)などは水分を吸うと分子鎖が動きやすくなり、Tgが低温側にずれてE'も下がります。絶乾状態か調湿状態かで結果が大きく変わるため、測定前の状態調節を必ず記録します。


  • 熱履歴・劣化:アニールやポストキュアで結晶化や硬化が進むと、E'やTgが変わります。劣化前後やリサイクル材と新材を同じ条件で測れば、変化を数値で比較できます。


測定条件で結果は変わる:周波数・昇温速度・測定モード

DMAの数値は、測定条件が違うとそのままは比較できません。特に次の4つが結果に影響します

条件

結果への影響

比較・設計での注意

周波数

周波数を上げると、分子の動きが追いつかず硬く振る舞うため、Tgは高温側にずれます

1Hzがよく使われます。振動や衝撃を受ける部品では、実際の周波数帯との違いを意識します

昇温速度

速いと試験片の内部の温度が追いつかず、見かけのTgが高く出ます

一般に数℃/min程度で測定します。比較するデータは同じ昇温速度でそろえます

測定モード

引張・曲げ・せん断で、得られる弾性率の種類(EかGか)や絶対値が変わります

モードが違うデータどうしは、絶対値を比べないようにします

試験片

寸法のばらつき、成形品からの切り出し位置・方向、残留応力、含水率で値が変わります

切り出し位置と方向、状態調節を記録します

成形品は、ゲートからの距離や肉厚によって配向や結晶化の状態が違います。切り出す場所で結果が変わる理由は「射出成形品の物性が場所によって変わるのは何故か?」で紹介しています。

代表的な測定モードと向いている試料

モード

向いている試料

引張

フィルム、繊維、薄い板

3点曲げ・両持ち曲げ

剛性の高い樹脂板、GF強化材

片持ち曲げ

樹脂板全般。低温から転移領域まで幅広く測りやすい

せん断

ゴム、エラストマー、柔らかい材料

圧縮

発泡体、柔らかいブロック状の試料


DMAと他の試験の違い

DMAの強みは、剛性の温度変化を「連続的な曲線」で得られることです。一方、強度や長期的な変形は測れないため、他の試験と組み合わせて使います。

試験

測るもの

試料の状態

得られる主な値

使う場面

DMA

微小な振動に対する応答

固体

E'・E''・tanδの温度曲線、Tg

剛性の温度依存性、材料間の比較

DSC(示差走査熱量測定)

熱の出入り

固体~溶融

Tg、融点、結晶化温度、結晶化度

材料の同定、成形条件・結晶化の検討

TMA(熱機械分析)

寸法の変化

固体

線膨張係数、軟化温度

異材との組み合わせ、寸法設計

荷重たわみ温度(HDT)

一定荷重下で所定量たわむ温度

固体

1つの温度(0.45MPa・1.80MPa荷重など)

カタログでの耐熱性の簡易比較

引張・曲げ試験

破壊までの強さと伸び

固体

強度、弾性率、破断ひずみ

強度設計(温度ごとに別の試験が必要)

クリープ試験

一定荷重での長期的な変形

固体

時間と変形量の関係

ネジ締結部や常時荷重がかかる部品

粘度測定(細管式・回転式)

溶融樹脂の流れにくさ

溶融

せん断粘度の温度・せん断速度依存性

流動解析の材料データ、充填性の検討

HDTはカタログで比べやすい一方、「その温度まで安全に使える」という意味ではありません。使用温度での剛性がどれだけ残るかは、DMAの曲線で確認すると判断しやすくなります。


DMAの適用範囲と限界

DMAは便利な手法ですが、次のようなことは直接は分かりません。

  • 溶融樹脂の流れやすさ:DMAは主に固体状態の試験です。射出成形での充填性に関わる溶融粘度は、粘度測定で評価します。詳しくは「溶融樹脂粘度測定法の概念」「CAE:樹脂粘度測定」をご覧ください。

  • 強度や破壊:DMAは壊さない小さな変形で測るため、割れる応力や伸びは分かりません。

  • 長時間の荷重による変形:数十時間から数年の変形は、クリープ試験で評価します。「用語解説:樹脂成形品におけるクリープとは」もあわせてご覧ください。

  • 製品そのものの挙動:試験片の結果であり、製品の形状、肉厚、配向、残留応力は含まれません。製品としての判断には、構造解析や実物評価と組み合わせます。


射出成形・製品設計での活用事例

事例1:高温環境での部品のたわみを見積もる

車内や発熱する装置の内部で使う部品では、常温の弾性率だけで設計すると、高温時のたわみを小さく見積もってしまいます。

たとえば片持ちはりの先端に荷重がかかる場合、たわみは弾性率に反比例します(弾性変形の範囲での近似)

近似式

DMAで使用温度のE'が常温の半分だと分かれば、同じ荷重でもたわみはおよそ2倍になると見積もれます。引張や曲げ試験を温度ごとに繰り返さなくても、1回の測定で使用温度範囲全体の影響を把握できるのがDMAの利点です。

ただし、DMAのE'は小さな振動で測った値で、静的な曲げ弾性率とは必ずしも一致しません。設計値に使うときは、温度による「変化の割合」を主に参考にし、常温の静的試験値と組み合わせるのが実務的です。電子レンジ容器の変形を例にした耐熱性の考え方は「プラスチック容器はなぜ電子レンジで変形するのか?」でも解説しています。


事例2:スナップフィット・ヒンジの材料選定

何度も開閉するヒンジや、はめ込みのスナップフィットでは、使用温度での剛性が変わると、嵌合の力や戻りの強さが変わります。低温で硬くなりすぎて割れないか、高温で柔らかくなりすぎて外れないかを、E'の曲線で事前に確かめられます。樹脂のばね特性については「洗濯ばさみや容器のフタはなぜ何度も開閉できるのか?」で紹介しています。


事例3:成形条件と不良要因の検討

  • 取り出し時の変形:金型温度付近でのE'が低い材料は、突き出しの力で変形しやすくなります。金型温度や冷却時間を決める際の根拠の一つになります。

  • 材料の変更・リサイクル材の導入:旧材料と新材料を同じ条件で測れば、常温のカタログ値では見えない高温側の差を確認できます。

  • 市場不具合の調査:変形や割れが起きた製品と正常品を比べると、吸水、劣化、結晶化の違いなど、原因を絞り込む手がかりになります。


よくある質問

Q1. tanδのピーク温度はTgと同じですか?

DMAではTgの定義の一つとして使われますが、E'の低下開始点やE''のピークより高い値になるのが一般的です。どの定義かをそろえて比較してください。

Q2. DMAとDSCで求めたTgが違うのはなぜですか?

DSCは熱の出入り、DMAは力学的な応答を測っており、測っている現象が異なるためです。さらにDMAは周波数や昇温速度の影響も受けます。値のずれは異常ではなく、測定法と条件を併記することが大切です。

Q3. 荷重たわみ温度(HDT)とDMAはどう使い分けますか?

HDTはカタログでの簡易比較に向いた1点の値です。使用温度での剛性がどれだけ残るかを知りたい場合は、連続的な曲線が得られるDMAが向いています。

Q4. DMAで溶融樹脂の流れやすさは分かりますか?

直接は分かりません。DMAは主に固体の試験です。射出成形での充填性に関わる溶融粘度は、細管式や回転式の粘度測定で評価します。

Q5. 周波数1Hzの値は実際の使用環境に当てはまりますか?

材料どうしの比較には有効です。ただし、振動や衝撃を受ける部品では、周波数が高いほど材料は硬く振る舞います。逆に長時間の荷重では、より柔らかく振る舞うため、クリープ試験を併用します。

Q6. 試験片は射出成形品から切り出してもよいですか?

可能です。ただし、切り出す位置や方向で配向や結晶化の状態が異なるため、位置と方向を記録してください。製品に近い状態を評価できる利点がある一方、標準試験片の値とはそのまま比較できません。

Q7. E'が何MPaあれば十分かは、どう判断しますか?

一律の基準はありません。部品に求められるたわみの許容量から必要な剛性を計算し、使用温度のE'と照らし合わせて判断します。形状の工夫(リブや肉厚)で補える場合もあるため、構造解析とあわせて検討するのが確実です。


まとめ

DMAは、樹脂の硬さとねばりを温度の関数として連続的に測れる試験です。設計に活かすためのポイントは次の4つです。

  • 使用温度範囲のE'を読み、常温に対してどれだけ下がるかを確認する

  • Tgはどの定義(E'の低下開始点・E''のピーク・tanδのピーク)の値かをそろえて比較する

  • 周波数・昇温速度・測定モード・試験片の条件をそろえて比較する

  • 溶融時の流動性、強度、長期の変形は、それぞれ粘度測定、引張・曲げ試験、クリープ試験と組み合わせて判断する

常温のカタログ値だけでは見えない「高温での弱さ」を事前に把握できることが、DMAを使う最大の利点です。


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