【改善事例】穴明け加工時間の削減
- SANKO GOSEI
- 10月2日
- 読了時間: 4分
はじめに
金型製作において、機械加工は全工程の大部分を占めており、その効率化は生産性向上の鍵を握っています。特に冷却穴や逃がし穴といった穴明け加工は、工期の長期化を招く要因の一つです。そこで、エスバンス株式会社では「穴明け加工時間の削減」をテーマに改善活動を行いました。本稿では、その取り組みと成果について紹介します。
背景と課題認識
同社は「金型生産性3倍プロジェクト」を掲げ、設計出図から試作(T-0)までの工期を120日から80日へ短縮することを目標に掲げていました。生産性を向上させるためには、機械加工の中でも特に時間を要するガンドリルによる深穴加工の短縮が不可欠でした。
▸ガンドリルとは

深穴加工を専門としたドリルの名称です。「ガンドリル」はドリルの先端からポンプで高圧の切削油を噴射し回転を行うことで、切屑を切削油と一緒に回転するシャンクの
外側のV溝をとおして外部に吹き飛ばします。
ガンドリルは回転と送り速度の調整が重要なポイントになります。
当時のガンドリル工程は以下の通りです。
冷却タンク加工:型底面からの深穴

冷却つなぎ加工:型側面からの深穴

逃がし穴加工
これらを合わせると、1型あたり5.5日を要しており、生産リードタイム短縮のボトルネックとなっていました。
改善の方向性
課題を解決するため、以下の二本柱で改善を進めました。
新規工具の導入と改良
ロウ付け式からチップ式ガンドリルへの切り替え
ガイドパッドの改良による工具強化
加工方法の改善
クロス穴加工に対応できる加工送り可変制御ソフトの開発
オペレーター依存の手動制御をNCプログラム化し、無人加工を実現
改善前の問題点
クロス穴加工での工具破損

側面からの冷却つなぎ穴は、既に加工済みの冷却タンクと交差するため、送り速度を上げると工具先端が破損する問題がありました。

そこで新ドリルの検討として、ロウ付けガンドリルに換わるつなぎ穴加工用チップ式ドリルを導入しました。しかし、下記の問題もあり、思うような効果が得られなかった
ロウ付け式では送りを上げられず、加工時間が長引く。
新規チップ式でもクロス部でビビリが発生し、チップ破損や摩耗が早かった
オペレーター依存の手動制御
クロス部ではオペレーターが送りを手動で10%まで落とし、通過後に100%に戻す必要がありました。
効率が悪く、有人作業を強いられる。
加工条件が一定化できず、品質の安定性にも課題があった。
改善策の実施
① 工具改良による安定加工

ガイドパッドの枚数を2枚から5枚へ増加し、長さを延長することでクロス部でのビビリを抑制。これにより、チップ破損の防止と工具寿命の延長を実現しました。
② 可変送り制御ソフトの開発

CAM-TOOLを用いて**「加工送り可変制御ソフト」**を開発。
クロス部の直前で自動的に送り速度を落とし、通過後に加速するNCプログラムを実現。
オペレーターが手動で操作していた動作を完全自動化。
偏心や斜め交差といった特殊ケースにも対応可能とした
改善結果
工期短縮
改善前:ガンドリル加工に5.5日
改善後:ガンドリル加工に3.5日(2日短縮)
冷却タンク加工:1日短縮
冷却つなぎ加工:1日短縮

1型あたり2日の工期短縮を実現しました1
加工速度の向上
可変送り制御により、クロス穴加工は無人で3倍速を達成。
MCガンドリル(φ26、400mm深さ)では、1本あたり20分 → 3分に短縮。
品質・安定性の向上
ビビリが抑制され、工具破損が大幅に減少。
無人化により作業者依存が排除され、加工条件が安定
波及効果と今後の展開
今回の改善により得られた波及効果は以下の通りです。
5軸加工機への展開
可変送り制御を5軸深穴加工へ応用し、幅広い金型加工に適用可能となった。
さらなる工程短縮の可能性
今後はヘリカル加工による穴明けを検討し、工程短縮と工具費削減を狙う。
生産性3倍プロジェクトへの寄与
穴明け加工の効率化により、目標とする工期80日への前進が確実となった。
まとめ
本改善事例では、工具改良と加工方法の自動化により、穴明け加工のボトルネックを解消しました。
ガンドリル工程を5.5日から3.5日へ短縮
クロス穴加工の無人・3倍速化を実現
MCガンドリルで20分から3分へ加工時間を短縮
これらの成果は、工期短縮のみならず、品質安定化と作業者負荷軽減にもつながり、金型製作の生産性向上に大きく寄与しました。今後はヘリカル加工など新たな技術も取り入れ、さらなる改善活動が続けられる予定です






