【改善事例】金型部品合わせ工数の削減
- SANKO GOSEI
- 2 時間前
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はじめに
近年の射出成形分野では、製品の多様化とハイサイクル化に伴い、金型の構造も複雑化しています。その中でも、エジェクタ突出し構造におけるブロック数量の増加は大きな課題です。

ブロック合わせ作業は仕上げ工程における工数の多くを占め、作業時間が膨らむだけでなく、人員計画や工期設定を困難にしていました。そこで本稿では、エスバンス株式会社で行われた「部品合わせ工数の削減」の取り組みについて紹介します
背景と課題

ブロック合わせとは、ブロック(凸形状)と主型(凹形状)を適切に嵌め合うための手作業です。機械加工後の状態では精度が不十分なため、仕上げ部門が回転工具やヤスリを用いて微調整し、嵌合精度を確保します。しかし、以下の課題が浮き彫りになっていました。
仕上げ工数の増大
加工ブロックの数量増加により、全体工程に占める割合が拡大。
作業時間のバラつき
削り代が一定でないため、1個ごとの合わせ時間に大きな差が生じる。
工程計画の不安定さ
工期や人員配置の予測が困難になり、製造全体の効率に影響。

結果として、部品合わせ工数は仕上げ工程全体の25%を占め、効率改善のボトルネックとなっていました
改善前の状況
調査の結果、各部品ごとの平均作業時間は以下の通りでした。
直上ブロック:40分/個
傾斜ブロック:120分/個
コアブッシュ:60分/個
また、多面体形状の部品では設計公差を設定してもバランス良く収まらず、削り代が増える傾向が見られました。特に傾斜ブロックは、削り作業が多く、仕上げ担当者の負担が大きな問題となっていました
▸改善前の交差

改善の方向性
改善活動の中心は、**「最適な嵌合値と加工公差の標準化」**にありました。
取り組み内容
実測データの収集
機械加工直後の嵌合部を複数型で測定し、底面の隙間と嵌合角度を分析。
公差条件の試行
各種公差で加工したブロックを実際に合わせ、削り作業時間を記録。
最適値の導出
削り代が最小で、かつ短時間で作業完了できる条件を特定。

最終的に導き出された標準値は以下の通りです。
ブロックの加工公差:0 ~ +0.03
掘り込みの加工公差:+0.05 ~ +0.08
嵌合値:+0.02 ~ +0.08
これにより、誰が作業しても同じ品質・効率を確保できる体制が整いました

改善結果
標準化によって、部品合わせ時間は大幅に短縮されました。
直上ブロック:40分 → 10分(75%削減)
傾斜ブロック:120分 → 45分(62.5%削減)
コアブッシュ:60分 → 15分(75%削減)
全体として、部品合わせ工数を約70%削減することに成功しました
さらに、コスト面でも以下の効果が得られました。
直上ブロック:34.4万円 → 8.6万円
傾斜ブロック:20.6万円 → 7.7万円
コアブッシュ:3.7万円 → 0.9万円
合計では、約58.9万円から17.3万円へと大幅な削減を実現しました。
成果の波及効果
部品合わせ工数の削減は、単に時間短縮にとどまらず、以下の効果を生みました。
工程全体の効率化
ダイスポ・磨き工程の比率が低下し、可動側組立のバランスが改善。
計画精度の向上
公差標準化により、作業時間をブロック数から事前に算出可能となり、人員配置や工期計画の精度が向上。
品質の安定化
手仕上げ依存が減り、仕上がり品質のバラつきが低減。
今後の展開
今回の取り組みは100mm角以内の部品を対象に行いましたが、今後は以下の展開を計画しています。
高さ150mm以上の大型部品への展開
より複雑な部品でも同様の効果を検証。
キャビスライド合わせへの応用
部品合わせ工数のさらなる削減を目指す。
まとめ
今回の改善事例では、「最適な嵌合値の特定」と「加工公差の標準化」によって、部品合わせ工数を70%削減し、コスト・品質・工程計画の全てに好影響をもたらしました。
この成果は、現場の知恵とデータ分析を組み合わせた典型的なQC改善活動の成功例であり、今後の金型技術革新においても重要な指針となるでしょう