【1万ショット連続成形実験】金型が汚れる原因とその対策とは?
- SANKO GOSEI
- 3月24日
- 読了時間: 3分
はじめに
射出成形では、製品の安定量産のために連続成形が欠かせません。しかし、連続でショットを重ねるうちに徐々に発生する「金型表面の汚れ」は、生産品質を左右する重要な問題です。
今回は、1万ショット連続成形を実施した結果をもとに、金型汚れの主な要因とそのメカニズム、そして実際に現場で取れる対策についてご紹介します。
実験概要

使用機種:150トンクラス汎用射出成形機
成形条件:
樹脂:PA6(標準グレード)
射出温度:250℃
金型温度:80℃
サイクルタイム:30秒
離型剤使用:無し
評価対象:パーティングライン、キャビティ表面、ガスベント周辺の汚れ状況
1. 金型が汚れる主な要因
① ガスの発生とその付着
熱可塑性樹脂は、成形時の高温・高圧下で微量なガス(アウトガス)を放出します。PA6のように添加剤が多い傾向の樹脂では、樹脂の分解や添加成分の揮発が起きやすくなり、これらがベントやパーティング面から抜けきらずに金型表面に付着することで、茶色〜黒色の汚れが現れます。
② 添加剤の析出(ブリードアウト)
PA6樹脂には、可塑剤・滑剤・難燃剤など様々な添加剤が含まれています。これらの一部が時間経過とともに樹脂表面に染み出し、射出の圧力によって金型側に押し付けられることで、うっすらとした油膜状の汚れが蓄積していきます。
③ 金型ベント設計の不備
ベント(空気抜き)が不十分、または詰まってしまうと、ガスが型内に閉じ込められたままになり、焦げ付きや汚れの原因となります。ベントの幅や深さ、配置は、樹脂ごとに最適化する必要があります。
④ 成形条件の過酷さ
設定温度が高すぎたり、樹脂の滞留時間が長いと、樹脂が部分的に熱分解してしまいます。結果として、炭化物(焦げ)や微粉が発生し、それがキャビティ表面に付着します。
PA6の場合、成形前に乾燥が推奨されますが、乾燥温度が高いと材料が焼けたように茶色く変色してしまうため、成形が難しい材料とも言えますね。➡こちら
2. ガス焼けの跡

1万ショットを終えた段階では、特にベント周辺とパーティングラインに汚れが集中していました。上の画像のように、ガスを排出する経路内に黒く焦げた跡が見られると思います。このような焼け跡が連続成形で堆積していくとガスベントが機能しなくなり、やがて成形品にもガス焼けがはっせいするようになります。定期的な金型クリーニングの必要性を強く感じました。
3. 金型汚れを防ぐための対策
対策項目 | 内容 |
ガスベントの見直し | 溝の深さや幅を再確認(例:0.02mm〜0.04mm) |
成形条件の最適化 | 樹脂に合わせた温度・速度・保圧時間の見直し |
樹脂の事前乾燥 | 水分由来のガスを抑制(PA6なら80℃×2時間など) |
添加剤の少ないグレード採用 | ブリードアウトを抑制可能な材料選定 |
金型クリーニングの周期管理 | ショット数に応じた予防的清掃ルールの設定 |
おわりに
金型表面の汚れは、成形品質の低下・離型性の悪化・メンテナンス工数の増加など、様々な悪影響を引き起こします。しかし、樹脂の特性理解と射出条件の適正化、定期的な金型管理を行うことで、十分に抑制・予防が可能です。
今回の1万ショット連続成形実験では、「いつ・どこに・どんな汚れが発生するか」を視覚的に確認することができ、現場でのメンテナンス基準づくりにも役立つと感じました。
ぜひ、皆さまの成形現場でも、汚れの傾向と対策をデータとして蓄積し、**“トラブルの予防型生産”**を目指してみてください!
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