製造業における不良率と現場改善の実際― 不良率0%は理想か、それとも幻想か ―
- SANKO GOSEI
- 10月2日
- 読了時間: 4分
はじめに
製造業の現場で日々議論されるテーマのひとつに「不良率」がある。不良率とは、製造した製品のうち規格外品や欠陥品が占める割合を指し、品質管理の重要な指標だ。取引先から求められるのは限りなくゼロに近い数値であり、社内からも「不良ゼロを目指せ」と常にプレッシャーがかかる。しかし、現場で働く人間からすると、これは簡単な言葉では片付けられない重いテーマだ。
本稿では、製造現場における不良率の意味、不良が発生する背景、改善活動の実態、そして「不良率0%」をめぐる考え方について現場視点で整理していく。

不良率が意味するもの
不良率は単なる数字ではない。例えば不良率1%といえば、一見わずかに見えるが、1日10,000個を生産するラインでは100個もの不良が出る計算になる。これらは廃棄されるだけでなく、手直しや検査工数、材料ロス、場合によっては顧客クレーム対応にまで発展し、金銭的にも時間的にも大きな損失となる。
現場では、わずか0.1%の不良率低減が、年間数百万円規模のコスト削減につながることも珍しくない。そのため「不良率」は経営的にも現場的にも極めて敏感な指標となる。
不良が発生する要因
不良の発生要因は多岐にわたる。大きく分けると「人」「設備」「材料」「方法」「環境」の5Mに分類できる。
人(Man):作業者の操作ミス、習熟度不足、注意力低下。
設備(Machine):金型や機械の摩耗、治具不良、センサー異常。
材料(Material):ロット差による特性変動、異物混入、湿度影響。
方法(Method):作業手順の曖昧さ、標準書の不備、検査方法のバラつき。
環境(Mother nature):温度・湿度の変動、粉塵や静電気の影響。
現場で働く人間にとって、不良は「偶然の産物」ではなく、必ず原因が潜んでいる。
問題は、それを突き止めるのに多大な時間と労力がかかる点だ。
現場の改善活動
不良率を下げるために、現場では様々な改善活動が行われている。例えば:
なぜなぜ分析(5回のWhy) 不良が出た際に「なぜ」を繰り返し、根本原因にたどり着く。
QCサークル活動 現場メンバーが小集団で改善テーマを持ち、不良削減に取り組む。
ポカヨケ(誤操作防止策) ヒューマンエラーを防ぐ仕組みを設備や治具に組み込む。
統計的工程管理(SPC) データを基に工程の安定性を監視し、異常兆候を早期に発見する。
こうした取り組みにより、不良率は着実に下がっていく。しかし、同時に「ゼロ」への壁が見えてくるのも事実だ。
「不良ゼロ」の理想と現実
現場に身を置く者として、正直に言えば「不良ゼロ」は理想論に近い。製造工程には多くの変動要因があり、すべてを完全にコントロールすることは不可能に近いからだ。例えば、材料ロットごとのわずかな物性値の差、金型の摩耗状態、気温・湿度の変化など、現場には「数値化できない揺らぎ」が必ず存在する。
そのため、不良率を0%にすることは現実的には達成困難である。しかし、だからといって「不良は出ても仕方がない」と諦めることは許されない。大切なのは「ゼロを目指す姿勢」を持ち続けることだ。
姿勢がもたらす効果
「不良ゼロを目指す」という姿勢は、単に品質面だけでなく、組織全体に良い影響を与える。
意識改革 現場の作業者が「どうせ不良は出る」と思って作業するのと、「不良を絶対に出さない」と思って作業するのでは、結果に大きな差が出る。
仕組み改善の継続 ゼロを目指すからこそ、新しい改善策や自動化設備の導入が検討される。
顧客信頼の維持 顧客に対し「限りなくゼロに近づける努力をしている」という姿勢を示すことは、企業の信頼を高める。
つまり、「不良率0%は不可能だが、その姿勢が改善と信頼を生み出す」のである。
結論
製造現場における不良率は、単なる品質指標にとどまらず、企業文化や現場意識を映す鏡でもある。不良を完全にゼロにすることは不可能かもしれない。しかし、ゼロを目指す姿勢を忘れた瞬間、品質は一気に崩れ始める。
現場で働く者として、不良に直面したときに最も大切なのは、「原因を追究し、改善を続ける姿勢」である。ゼロという理想は達成できなくとも、その姿勢こそが現場を成長させ、顧客からの信頼を支え続ける。
不良率0%は幻想かもしれない。しかし、その幻想を追いかける姿勢こそが、ものづくりの現場にとって永遠の課題であり、誇りなのである。