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板金インサート成形で重要なゲート位置の選定とは?ガラス繊維の配向が熱変形を左右する理由

11 分前
読了時間: 5分

はじめに

射出成形品に金属部品を組み込む「インサート成形」は、樹脂の軽量性や設計自由度と、金属の強度や剛性を組み合わせられる技術です。特に、板金部品を樹脂で包み込む構造は、自動車部品や電気・電子機器など、さまざまな製品で利用されています。

板金インサートされた自動車部品の画像

一方で、板金インサート成形には注意すべき課題があります。その一つが、樹脂と金属の線膨張係数の違いによって生じる温度変化時の変形です。

実は、ガラス繊維を含む樹脂の場合、繊維の配向によって線膨張係数が変化します。そのため、射出成形時のゲート位置を適切に選定することで、樹脂と金属の熱膨張差を小さくし、変形を抑制できる可能性があります。

今回は、CAE解析による検証事例を交えながら、ゲート位置と繊維配向、熱変形の関係について解説します。


1. 樹脂と金属の線膨張係数の違い

線膨張係数とは、温度が1℃変化したときに、材料の長さがどの程度変化するかを示す物性値です。

一般的に、樹脂は金属よりも線膨張係数が大きく、温度変化によって寸法が変わりやすい材料です。

例えば、代表的な材料の線膨張係数は次のようになります。

材料

線膨張係数の目安

鉄鋼

約11~13×10⁻⁶/℃

アルミニウム

約23×10⁻⁶/℃

ガラス繊維強化樹脂(繊維方向)

数~十数×10⁻⁶/℃

ガラス繊維強化樹脂(繊維と直交する方向)

数十×10⁻⁶/℃

非強化樹脂

数十~百数十×10⁻⁶/℃

※数値は材料や配合、温度、測定方向によって異なる一般的な目安です。

樹脂と金属を一体化すると、両者は自由に伸び縮みできなくなります。温度が上昇した場合、樹脂は金属より大きく膨張しようとしますが、金属によってその変形が拘束されます。反対に、温度が低下すると樹脂は大きく収縮しようとします。

このような膨張・収縮の差によって、インサート周辺に応力が発生し、製品全体の反りや変形、場合によっては割れや接合部の不具合につながります。


2. ガラス繊維の配向によって線膨張係数が変わる

ガラス繊維強化樹脂では、樹脂の中に含まれるガラス繊維が熱膨張を抑える働きをします。

ただし、その効果はすべての方向で同じではありません。

射出成形では、溶融樹脂が金型内を流れる際に、ガラス繊維が流動方向に沿って配向する傾向があります。繊維方向は膨張が抑制されやすく、繊維と直交する方向では相対的に膨張しやすくなります。

つまり、同じ材料を使用していても、成形品の場所や方向によって線膨張係数が異なる場合があります。

このように、方向によって物性が異なる性質を「異方性」と呼びます。

板金インサート成形では、この異方性が重要になります。金属板の長手方向に沿って樹脂の繊維配向を調整できれば、樹脂と金属の線膨張係数の差を小さくできる可能性があるためです。


3. ゲート位置が繊維配向を左右する

ガラス繊維の配向は、射出成形時の樹脂の流れ方に大きく影響されます。

例えば、細長い板状の成形品を考えてみましょう。

変形量を計算する3Dモデルの画像

短辺側にゲートを設けると、樹脂は長手方向に流れやすくなります。その結果、ガラス繊維も長手方向に配向する傾向があります。

一方、長辺側にゲートを設けると、樹脂の流れ方が変わり、場所によっては繊維の配向方向も変化します。

この違いによって、成形品の長手方向や幅方向の線膨張係数が変化し、板金との熱膨張差や変形量にも影響が生じます。

もちろん、実際の繊維配向はゲート位置だけで決まるわけではありません。製品形状、板厚、流速、金型温度、樹脂温度、繊維含有率なども関係します。

そのため、ゲート位置を決定する際には、単に充填しやすさだけでなく、繊維配向と熱変形まで考慮することが重要です。


4. CAE解析によるゲート位置と変形量の比較

線膨張係数の異方性が板金インサートの変形にどれほど影響を与えるかCAE解析で比較を行いました。線膨張係数の値は以下の値を入力しています。


材料ごとの線膨張係数
ガラス繊維配向による変形量の計算結果

解析結果では、最大変形量は長手方向に合うようにゲートを設定した場合、約0.13 mm

長手方向に直交する方向に設定した場合では約0.35 mmとなっています。

この結果から、ゲート位置の選定によって最大変形量を半分以下に抑えられる可能性が示されました。

ただし、これは特定の製品形状、材料、インサート条件、温度条件における解析結果です。すべての板金インサート成形品で同じ効果が得られるわけではありません。

重要なのは、ゲート位置を変えることで繊維配向が変わり、熱膨張差と変形量を制御できる可能性があるという点です。


5. 板金インサート成形における設計のポイント

板金インサート成形の熱変形を抑えるためには、次のような項目を総合的に検討する必要があります。

  • ゲート位置の最適化: 樹脂の流動方向とガラス繊維の配向を考慮する

  • 材料選定: 金属との線膨張係数の差が小さい材料を検討する

  • インサート形状の検討: 金属による拘束や応力集中を考慮する

  • 成形条件の検討: 樹脂温度、金型温度、射出速度などによる配向の変化を確認する

  • CAEによる事前検証: 繊維配向、異方性物性、温度変化を考慮して変形量を予測する

特に、製品形状が複雑な場合や、金属板の長さが大きい場合には、試作後の修正だけでなく、設計段階でCAEを活用することが有効です。


まとめ

板金インサート成形では、樹脂と金属の線膨張係数の違いによって、温度変化時に反りや変形が発生することがあります。

しかし、ガラス繊維強化樹脂では、繊維の配向によって方向ごとの線膨張係数が変化します。そのため、ゲート位置を適切に選定し、繊維配向を制御することで、金属との熱膨張差を小さくし、変形を抑制できる可能性があります。

ゲート位置は、単に樹脂を充填するための位置ではありません。製品の寸法精度や信頼性を左右する重要な設計要素です。

板金インサート成形を検討する際には、材料、製品形状、ゲート位置を一体で考え、CAE解析を活用しながら最適な設計条件を見つけることが重要です。

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