多点バルブゲートを用いた物性低下抑制技術①
- SANKO GOSEI
- 7月3日
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はじめに
近年、プラスチック廃棄物による環境問題が深刻化しています。海洋プラスチックや廃プラ焼却に伴うCO2排出量の増大は、持続可能な社会にとって大きな課題です。こうした中、廃プラスチックの再資源化、すなわちリサイクル材の活用は避けて通れないテーマとなっています。しかし、リサイクル材はバージン材に比べて分子鎖の絡み合いが少なく、強度などの物性が著しく低下するという難点があります。特に、自動車や工業部品といった高付加価値製品への適用では、物性の低下が大きな障壁となってきました。

この課題を克服するため、本研究では多点バルブゲートと流速制御を用いた成形技術の開発に取り組みました。成形加工時に発生するせん断応力を低減し、物性のばらつきを抑える技術により、リサイクル材の高付加価値化を目指しています。
リサイクル材の物性低下のメカニズム

リサイクル材は、粉砕・溶融・射出成形といった加工工程を経る中で、繰り返しせん断応力を受けます。このせん断応力が分子鎖を引き延ばし絡み合いを弱めるため、強度や延性といった物性が著しく低下します。
例えば、同じポリプロピレン樹脂を使用した試験においても、射出速度を上げることで引張破断伸びは最大48%低下することが確認されています。つまり、成形工程でのせん断負荷をいかに低減するかが、リサイクル材の物性維持において重要な課題です。
★技術開発の狙い
これまで、成形品の物性評価は引張試験などの破壊試験に依存していました。しかし、成形条件が複雑化する中、実際の生産現場でリアルタイムに物性低下の兆候を把握することは困難です。
本研究の目的は次の通りです。
成形時の樹脂流速を制御し、せん断応力を抑制すること
成形品内部の物性ばらつきを低減すること
成形中の流速計測により、物性の良否を推定できる仕組みを構築すること
これらを実現するため、多点バルブゲートと電動制御、流速センサを組み合わせた成形システムを開発しました。
実験概要
評価対象として、バージン材および粉砕再生材のポリプロピレン(PP)を用い、板状成形品を射出成形しました。

ゲートは以下の2パターンを比較しました。
1点ゲート(従来方式)
2点ゲート(多点バルブゲート)(新技術)
各ゲートからの距離や位置(中央部・外周部)で試験片を採取し、引張破断伸び(延性)を測定しました。さらに、流速センサにより型内樹脂の流速をリアルタイムに記録しました。
1点ゲート成形の課題

1点ゲート成形では、成形品内で流動距離が長くなるほど分子鎖が強く引き延ばされ、せん断応力が増加することが分かりました。その結果、以下の傾向が確認されました。
ゲート近傍:樹脂が高温かつ流動性が高いため、せん断応力が比較的少なく、物性は高い。
ゲートから遠い部位:冷却進行や流動抵抗の増加により、せん断応力が大きく物性が低下。
外周部:金型表面に接するスキン層が早期に固化し、絡み合いが減少しやすい。
これらの影響により、同一成形品内でも破断伸びに大きな差が生じ、リサイクル材の利用において大きな問題となりました。
多点バルブゲートによる改善

次に、多点バルブゲートを用いたシーケンシャル成形を行いました。これは1点目のゲートを開き樹脂を流し、先行樹脂が2点目のゲート付近に到達したタイミングで2点目のゲートを開く手法です。これにより、流動距離の差を短縮し、型内の充填バランスを調整する狙いがあります。
さらに、電動バルブゲートの開閉速度や開閉量を制御し、流速センサで計測した樹脂流速を均一化する試みを行いました。
実験結果
多点バルブゲートを使用することで、以下の効果が確認されました。

破断伸びの向上
従来の1点ゲートに比べ、全体的に破断伸びが25~43%向上。
特にゲート近方部での物性低下が顕著に改善。
物性の均質化
流速を均一化することで、部位間の物性差が大幅に低減。
流速と物性の相関
流速が高い部位はせん断応力が増え物性低下する傾向があり、成形時に流速をモニタリングすることで物性予測が可能であることが示唆された。
特に、流速を210mm/sに統一した条件では、成形品全域で破断伸びが安定し、リサイクル材でも高いレベルの物性を実現できた。
技術の意義と今後の展開
本研究で確立した技術は以下の意義を持ちます。
高付加価値成形品のリサイクル材利用を可能にする基盤技術
成形条件最適化による物性低下抑制の実用化
CAE解析と組み合わせた精密な成形予測への展開
また、樹脂流速のモニタリングにより、将来的にはAI・IoTによるリアルタイム成形条件制御が視野に入ります。成形中に自動で流速や圧力を制御し、ばらつきのない品質を確保する仕組みの構築が可能です。
まとめ
多点バルブゲートを活用した本技術は、せん断応力を抑制し、リサイクル材の物性低下を最小限に抑える革新的な成形手法です。流速制御による均質な物性の実現は、リサイクル材の高付加価値化において大きな前進となります。
本研究の成果をもとに、将来的には100%再資源化と高品質リサイクル材の普及を目指し、環境負荷低減と収益性の両立を実現していきます。