多数個取り、バリ処理工程撤廃によるコスト削減事例
- SANKO GOSEI
- 9月16日
- 読了時間: 3分
はじめに
製造業において、工程削減と取り数の見直しは、限られたリソースで最大の成果を得るための重要な改善手法です。本稿では、三光合成のオート機能ビジネスユニット 営業技術部が実施した、「Poppet Retainer(ポペットリテーナー)」の成形工程改善によるコスト削減事例をご紹介します。
本改善では、以下の2つのテーマが柱となっています。
成形型の4ヶ取から8ヶ取への見直し(取り数の倍増)
製品のバリ取り工程の撤廃
結果として、原価低減・生産性向上・品質安定化を実現し、年額約75万円のコスト削減効果が得られました。
対象製品:Poppet Retainer(ポペットリテーナー)
この製品は、車両用樹脂部品で、2007年末より量産が開始されました。
材料は**PET-GF35%(デュポン社:RYNITE RE15022)**を使用
寸法精度や外観要求が非常に厳しい部品です。

主な仕様
投影面積:9.0㎠
使用機種:TOYO Si180Ⅲ(180t成形機)
製品重量:5.1g/個
ゲート:トンネルゲート(3点)
図面要求:「バリなきこと」と明記あり
課題:4ヶ取金型の老朽化とバリ発生
生産開始から10年以上が経過した2019年時点で、トータルショット数が70万回を超え、金型摩耗によるバリ発生が目立ち始めました。

特に「入れ子間の隙間」からバリが発生しやすく、全数に対してバリ取り作業が必要な状況に。これにより、追加作業工数が発生し、生産性低下・コスト増に直結していました。
改善策①:バリ取り工程の撤廃

対応内容
金型のインサート部品を一体化することで、入れ子間の隙間を排除
結果として、バリ発生を抑制し、バリ取り作業を完全に撤廃
効果
外観品質が安定
工数ゼロ化によるコスト削減
二次加工工程を廃止できることで納期短縮にも寄与
改善策②:取り数を4ヶ取→8ヶ取へ倍増

継続的な受注が見込まれること、および顧客側から生産能力の増加を求められていた背景を受け、金型を8ヶ取に更新することを決定しました。
設計の工夫
製品配置を縦方向に8個並列とし、成形機(Si180Ⅲ)のタイバー間寸法560×560mm内に収める
使用成形機は従来と同じ(設備投資不要)
ゲート、ランナー、スプールの径なども最適化
改善策③:成形サイクルの短縮
従来型の成形サイクル:45秒改善後:25.5秒(約57%)
ポイント

スプール・ランナーの径や配置を最適化
金型冷却効率の見直し
成形条件(型温・樹脂温)は従来設定を踏襲し、再設定不要
改善策④:ランナー系の軽量化による樹脂使用量削減

旧型(4ヶ取り)のランナー・製品の合計重量:53.3g
新型は、以下の変更を実施:
①スプール15mmカット
②不要なランナーチャック削除
③ランナー径をφ5.2→φ3.9へ縮小
④第2スプール径をφ4→φ3に縮小
結果、8ヶ取りでランナー・製品の合計重量は96.3gになり
4ヶ取りの合計重量53.3g×2=106.6gよりも10g近く樹脂の使用量を削減しました。
改善効果まとめ
項目 | 旧(4ヶ取) | 新(8ヶ取) | 効果 |
バリ取り作業 | 必須 | 不要 | 工数削減・品質安定 |
取り数 | 4個 | 8個 | 生産性2倍 |
サイクルタイム | 45秒 | 25.5秒 | 57%に短縮 |
樹脂使用量 | 37.5g/shot | 73.2g/shot | 効率向上 |
おわりに
この事例は、「取り数と金型構造の最適化で大幅なコスト削減を達成した」
改善の一例です。
特に注目すべきは
既存の設備(成形機)をそのまま活用
バリレス成形による二次工程の完全撤廃
顧客図面要求(バリなし)に100%対応
といった、現場と顧客双方にとってメリットのある改善である点です。
今後も、設備に大きな追加投資をせずとも、設計と工程を見直すことで、コスト競争力を維持・向上させる取り組みが必要です。このような成功事例を横展開し、さらなる改善活動に繋げていくことが製造現場に求められています。