型内ゲートカット技術の確立 ― 外観品質と生産性向上を同時に実現する新しいアプローチ
- SANKO GOSEI
- 3 日前
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近年、射出成形の生産現場では「成形機の多台持ち」や「自動化」が強く求められており、これに伴って 金型側で作業を完結させる仕組み の重要性が高まっています。特に、外観品で用いられる製品においてはゲート処理が品質に直結するため、型内で美しく確実にゲートカットを行う技術の確立 が大きな課題となっていました。
本記事では、三光合成 T&Eユニットが取り組んだ「型内ゲートカット技術」の開発プロセスと成果を紹介します。
■ テーマ選定の背景:外観品でも対応できる自動ゲートカットを実現する
量産工場から寄せられた要望は、「作業者の作業を減らし、生産性を2倍へ向上させたい」というものでした。特にゲートカット作業は人に依存しやすく、製品形状や樹脂特性によって安定しないケースも多い。

そこで本テーマのフォーカスポイントとして、以下の3点が設定されました。
① 金型内で完結し、作業者の手を介さないこと(Automatic)
・成形機から取り出された時点でゲートが完全にカットされている・外乱の影響を受けず、自動化ラインに適応できること
② 外観品質に影響を与えないこと(Quality)
・外観面に傷や白化が生じない・ゲートカット後の面が美しく、変形がないこと
③ 低コストで製作できること(Cost)
・複雑な突出機構を用いず、コストを抑えて量産化が可能であること
従来の型内ゲートカット方式には、ウインクルゲートや突出遅延機構などが存在したが、いずれも ゲートの弾け・挟み込み・樹脂制限・製品変形・コスト増大 といった課題があり、外観品に適用できるレベルにはまだ到達していませんでした。

■ 新しいゲートカット方法の発想:垂直カットから水平カットへ
従来方式はゲートを垂直方向に切り離すため、ゲート先端が細くなりやすく、樹脂や条件の影響を受けやすかった。
そこで今回は発想を転換し、スライドを用いた「水平ゲートカット方式」 を採用した。
● 水平カットの特徴


ゲート先端を鋭角に成形でき、カット面が安定・スライドの移動でゲートを削ぎ落すように切断・突出ピンと併用し、ゲートの取り出しも金型内で完結
この方式により、金型側の機構がシンプルになりつつ、制御性が高まり外観品にも応用できる可能性が見えてきた。
■ 材料・外観・冷却の観点から総合検証
本技術の適応範囲を確認するため、外装部品でよく使われる複数の樹脂を選定し、次の観点で検証を行いました。
【1】最適なゲートカットタイミングの検証
冷却前後でゲートカットの品質に差が出るため、スライド作動タイミングを詳細に調整した。

結果として
➡ 「冷却後にゲートをカットするのがもっとも良好な面質になる」ことが判明しました。
【2】冷却時間と品質の関係
樹脂ごとに冷却時間を変えて比較したところ

➡ 冷却時間が長いほどゲートカット面が安定する➡ 樹脂種により品質差がある
という傾向が見られました。
PPおよびPP-GF30%ではゲート残りが発生しやすく、この点が次の課題として浮かび上がった。
■ 課題に対する対策:冷却と角度の最適化
① 冷却回路の追加

ゲート部の冷却が不十分だとカット面がダレやすいため、金型およびスライド双方に冷却回路を追加し、ゲート冷却性能を強化しました。
これにより、PPやPP-GFでもカット残りが大幅に改善しました。
② ゲートカット角度の見直し
当初は製品に対して2°の勾配をつけてスライドを引き抜いていたが
この角度がゲートを押しつぶす要因となっていました。

そこで、➡ 勾配0°(水平)の状態でスライドを移動させる方式に変更
結果として、形状にかかわらず安定した切断が可能になり、外観への影響も抑えられました。
■ 検証結果:5種類すべての樹脂でゲートカットが可能に
冷却強化と角度最適化の2つの対策を施した結果
選定した5種類すべての樹脂で安定したゲートカットが可能 となりました。

さらに追加検証として、ゲートサイズを大きくした条件でも試験を実施。
● ゲートサイズ比較

幅 6.9mm / 厚み 1.0mm
幅 25.3mm / 厚み 1.8mm
いずれも問題なくカットでき、大型ゲートにも対応可能であることが確認できました。
■ 効果:品質向上と生産性向上を両立
今回確立した水平型内ゲートカット方式は、以下のような効果をもたらしました。
● 外観品質の向上
・ゲートカット面が美しく、外観品に使用可能・ゲート残りや白化の発生が大幅に減少
● トラブル削減
・成形中のゲート弾け・挟み込みが減少・条件幅が広がり安定成形が可能
● 生産性の向上
・金型内で完結するため作業者の負担ゼロ・成形機の多台持ちを支援し、生産性2倍構想に寄与
● コスト削減
・突出遅延機構など複雑な構造を不要に・金型製作コストを抑えつつ自動化と品質を両立

■ 今後の展開と課題
現状で多くの樹脂・外観品で適用できる技術が確立できたが、今後の課題として以下が挙げられます。
より高難度の外観品への適用拡大
ガラス繊維入り樹脂でのさらなる面質安定
スライド機構の耐久性向上
ゲートカットタイミング最適化の自動化
この技術が進化することで、射出成形の自動化レベルはさらに向上し、品質とコストの両立が一層実現しやすくなると思われます。
■ まとめ
本記事で紹介した型内ゲートカット技術は、「外観品に使用できる品質」 と 「生産性2倍を実現する自動化」という相反するように見える要件を両立した重要な成果です。
従来方式の弱点を理解し、水平カットという新しい発想で課題を突破し、冷却・角度・タイミングの最適化によって高い安定性を実現した点は、金型技術開発の好例と言えます。
この技術は今後、外観部品や高付加価値成形品の生産現場において大きな力になることを願います。






