プラスチックの艶がある成形品、艶がない成形品
- SANKO GOSEI
- 5月27日
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更新日:5月29日

― 光沢のメカニズムと印象の違い ―
私たちが日常的に目にするプラスチック製品には、「艶があるもの」と「艶がないもの」が存在します。たとえば、スマートフォンの外装や家電製品のパネルなどには光沢感のある仕上げが施されていることが多い一方で、文具や家具のパーツには落ち着いたマットな質感の製品も多く見られます。同じプラスチック素材であっても、見た目の印象が大きく異なるこの“艶”の違いには、どのようなメカニズムが関わっているのでしょうか?また、艶があることによって人に与える印象とは?本記事では、成形品における艶のメカニズムと、それによって生まれる心理的・感覚的な違いについて解説します。
艶のあるように見えるメカニズム

艶とは、物体の表面が光を反射して「光って見える」現象を指します。これは物理的には鏡面反射と呼ばれ、表面が滑らかであればあるほど、光は一定方向に整って反射され、ハイライト(強い光の映り込み)が視認できるようになります。プラスチック成形品においてこのような光沢を出すためには、以下のような条件が関係しています。
1. 金型の表面仕上げ
艶を出すには、まず金型そのものが高い鏡面精度で研磨されている必要があります。鏡面仕上げされた金型により、溶融樹脂が冷えて固まる際に非常に滑らかな表面が形成されます。逆に、金型表面がサンドブラストやエッチングなどで粗く加工されている場合、艶は抑えられ、マットな仕上がりになります。

2. 材料の特性
同じ金型で成形しても、使用する樹脂の種類や添加剤の有無によって艶の出方が異なります。たとえば、ポリスチレン(PS)やアクリル(PMMA)は艶を出しやすい一方、ポリプロピレン(PP)やナイロンは相対的に艶を抑えた仕上がりになります。また、充填材(フィラー)を含む樹脂は光の乱反射が起こりやすく、艶が出にくくなります。
3. 成形条件
金型温度や射出速度などの成形条件も艶に大きく影響します。金型温度が高いと樹脂が金型表面により密着しやすくなり、滑らかな表面が得られやすくなります。また、充填速度が適切であれば、表面の乱れを防ぎ、光沢が向上します。
艶が与える視覚的・心理的印象
艶があるかないかによって、製品の「見え方」や「感じ方」は驚くほど変わります。これは単なる光の反射現象にとどまらず、人間の視覚と心理に深く関わる要素です。
● 艶あり製品の印象
艶のある成形品は、光がくっきりと反射し、視認性が高く、華やかで高級感のある印象を与えます。特に照明下では反射が強調され、「新しさ」「清潔感」「高品質」といったイメージが連想されやすくなります。そのため、家電や化粧品容器、スマートフォンなどの外装には艶あり仕上げが好まれることが多いです。
また、艶は視覚的なアクセントとしても有効です。艶のあるパーツを一部に取り入れることで、製品全体の質感にメリハリが生まれ、視覚的なインパクトを強めることができます。

● 艶なし製品の印象
一方、艶のない(マット)成形品は、光の反射が抑えられており、落ち着いた、自然で温かみのある印象を与えます。表面の凹凸が微細に光を拡散反射させることで、視覚的な刺激が少なく、目が疲れにくいという利点もあります。
マットな仕上がりは、「実用的」「控えめ」「信頼感」といった印象を与えるため、文房具、家具、業務用機器などで好まれる傾向があります。また、指紋や傷が目立ちにくいという実用上の利点もあります。

用途に応じた質感の選択
艶のある仕上がりと艶のない仕上がり、どちらが優れているというものではなく、用途やターゲット層、デザイン意図に応じて適切に使い分けることが重要です。たとえば、プレミアム感を打ち出したい製品には光沢仕上げが有効ですが、実用性重視の現場機器にはマット仕上げが適しています。
また、近年は「半艶(セミグロス)」という中間的な質感も多く採用されており、柔らかさと高級感のバランスをとる手法として注目されています。
まとめ
プラスチック成形品の艶の有無は、単なる見た目の違いにとどまらず、製品の印象や使用感、ブランドイメージにまで大きく影響を与える要素です。光沢のメカニズムを理解し、材料選定や金型設計、成形条件を適切に設定することで、狙い通りの質感を実現することが可能になります。艶あり/艶なしという質感の選択は、ユーザーの五感に訴えるデザイン戦略の一環として、今後ますます重要な要素となっていくでしょう。










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