【CAE】アイボルトの吊り角度による発生応力と変形量
- SANKO GOSEI
- 11 時間前
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― 構造解析で可視化する「横吊りの危険性」―
1. はじめに
重量物の吊り上げ作業は、製造業や金型業界において日常的に行われています。その中で広く使用されている吊り具の一つがアイボルトです。

アイボルトは簡便で汎用性が高い一方、使用方法を誤ると重大な事故につながる危険性を持っています。
特に重要なのが「吊り角度」です。多くの作業現場では
「横吊りは禁止されている」と理解されているものの、なぜ危険なのかを力学的に説明できるケースは多くありません。
本記事では、アイボルトの吊り角度に着目し、構造解析(CAE)によって発生応力と変形量を可視化することで、
垂直吊り
横吊り
の違いを定量的に比較し、横吊りの危険性を分かりやすく解説します。
2. アイボルトと吊り角度の基本
アイボルトは、本来軸方向(ねじ軸方向)に引張荷重を受けることを前提として設計されています。この条件下では、荷重は比較的均一に断面へ伝達され、材料強度を効率よく活用できます。
しかし吊り角度が傾くと、以下のような力が発生します。
軸方向引張力
曲げモーメント
せん断力
特に90°に近い横吊りでは、引張よりも曲げが支配的となり、アイボルト根元部に局所的な高応力が発生します。
3. なぜ横吊りは禁止されているのか
カタログや安全基準では、横吊りについて
使用不可
定格荷重を大幅に低減と明記されています。
その理由は単純で、破壊モードが大きく変化するためです。
垂直吊りの場合
応力状態:ほぼ一様な引張応力
変形:軸方向の微小伸び
安全性:高い
横吊りの場合
応力状態:曲げ+引張の複合応力
変形:根元で大きくたわむ
安全性:著しく低下
これを定量的に確認するため、構造解析を実施しました。
4. 構造解析条件の概要
本解析では、一般的なアイボルト形状(M30)をモデル化し、以下の条件で比較しました。
材質:炭素鋼
境界条件:ねじ部固定
荷重条件:14.7kN (JIS B 1168-1994) ただし45度の場合2個使用のため荷重は半分を想定
比較ケース

ケース①:垂直吊り(0°)
ケース②:45度吊り (45°)
ケース②:横吊り(90°)
評価項目は
最大ミーゼス応力
最大変形量
としています。
5. 解析結果:応力分布の違い

垂直吊りの結果
応力はねじ部根本からアイ部にかけて比較的均一に分布
最大応力は許容応力範囲内
応力集中は限定的
45度吊りの結果
アイボルト根本に強い応力集中が発生
最大応力は許容応力範囲内
横吊りの結果
アイボルト根元に強い応力集中が発生
最大応力は垂直吊りの約5倍
この結果より横吊りは垂直吊りに比べ破壊のリスクが高くなっていることが判断できますし
2個使いの45度吊りも応力集中が大きく、適切なアイボルトの使い方とは言いにくいですね
6. 変形量の比較

応力だけでなく、変形量の違いも安全性に大きく影響します。
垂直吊り:
変形はほぼ軸方向
目視では分からないレベル
45度吊り&横吊り:
根元から大きくたわむ
荷重増加に伴い塑性変形に移行しやすい
変形が大きいということは、
応力集中が進行
繰返し使用による疲労破壊リスク増大
を意味します。
7. 横吊りが引き起こす実際のリスク
構造解析結果から、横吊りには以下のリスクがあることが分かります。
予想以上に早い破断
突発的な破壊(前兆が少ない)
吊り荷の落下事故
作業者への重大災害
「定格荷重以内だから大丈夫」という判断が、最も危険であることを理解する必要があります。
8. まとめ
本記事では、アイボルトの吊り角度による影響を構造解析で可視化し、以下を明らかにしました。
アイボルトは軸方向使用が前提
横吊りでは曲げ応力が支配的になる
最大応力は垂直吊りの約5倍に増加
変形量も大きく、安全率が急激に低下
横吊り禁止は「ルール」ではなく「力学的必然」です。安全な吊り作業を行うためには、
正しい吊り角度の理解
適切な吊り具の選定
必要に応じた構造解析による裏付け
が不可欠です。構造解析は「事故を未然に防ぐための技術」であり、現場の安全性向上に大きく貢献します。






