金属加工業界では、工具の摩耗や効率低下が常に課題となっています。そんな中、スイス発祥の「イエプコ表面処理」技術が注目されています。この革新的な表面処理は、工具の寿命を延ばし、加工品質を向上させるだけでなく、コスト削減にも貢献します。この記事では、三光合成株式会社の資料を参考に、イエプコ表面処理の特徴、実施事例、効果を詳しく解説します。
イエプコ表面処理とは?
イエプコ表面処理は、スイス航空のエンジニアによってタービンブレードの耐久性向上のために開発された技術です。金属表面の微細な欠陥を補修し、平滑化と緻密化を実現することで、以下のような効果が得られます。
工具や金型の寿命延長
加工精度の向上
摺動抵抗の低減
離型性の向上
三光合成では、2014年にイエプコ処理装置を導入し、金型の離型対策を中心に幅広い用途で活用しています。
イエプコ表面処理の作業フロー
イエプコ表面処理は、クリーニングとピーニングの2つの工程で構成されています。
①マスキング・洗浄
処理を行わない部分にマスキングを施し、汚れや油脂を除去します。
②クリーニング工程
加工変質層、バリ、カエリを除去し、表面を清潔に整えます。
③ピーニング工程
微細なヒビやクボミを補修し、平滑化と緻密化を行います。
④最終洗浄
処理後の洗浄とマスキングの除去を行い、仕上げます。
実施事例:工具寿命の延長
三光合成では、NC加工に使用するエンドミルにイエプコ処理を施し、その効果を検証しました。
問題と対策
問題:イエプコ処理時間が長すぎると、工具表面のコーティングが剥がれ、逆に工具を痛めてしまう
対策:適切な処理時間or往復回数を設定し、処理速度を最適化。
実験の結果、処理時間を短縮して最適化することで、エンドミルの寿命が約2倍に延長されることが確認されました。
効果の詳細
摩耗の抑制:処理済みの工具では刃先の摩耗がほとんど見られず、長時間使用可能。
コスト削減:工具費用を年間約312万円削減。
品質向上:加工精度が向上し、製品の品質が安定。
その他の効果
イエプコ処理は、工具寿命延長以外にも多くのメリットをもたらします。
磨き時間の短縮
放電加工面に施すことで、研磨工程の時間を大幅に削減可能。
摺動面の性能向上
金型の摺動面に適用することで、かじりを防止し、長寿命化を実現。
成形機スクリューの改善
スクリュー表面に施すことで、コンタミ防止と寿命延長を可能に
現在の取り組みと展望
三光合成では、以下の取り組みを通じてイエプコ処理の適用範囲を広げています。
新しい加工工具への適用:リブ加工工具や仕上げ工具にも適用し、全体的な効率を向上。
返却された工具の分析:処理後の工具状態を定期的に確認し、条件を最適化。
今後はさらなるコスト削減と生産性向上を目指し、イエプコ処理の効果を最大化していく計画です。
まとめ
イエプコ表面処理は、工具寿命を大幅に延長し、加工コストを削減する革新的な技術です。三光合成の事例では、エンドミルの寿命が2倍に伸び、年間数百万円規模のコスト削減が実現しました。また、その他の加工面でも品質向上や効率化に寄与しています。
この技術は、金型や工具を使用する全ての製造現場で有効であり、競争力を高めるための重要な選択肢となるでしょう。
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