用語解説:金型加工における「カエリ」とは?~発生メカニズムと対策まで徹底解説~
- SANKO GOSEI
- 7月22日
- 読了時間: 4分
金型加工の現場では、「カエリ(バリ)」という言葉が頻繁に登場します。微細でありながら、製品の品質や機能、安全性に大きな影響を与えるこの現象は、決して軽視できるものではありません。この記事では、金型加工における「カエリ」とは何か、その原因、問題点、そして防止・除去の方法について詳しく解説します。
◆ カエリとは?
「カエリ」とは、切削や穴あけなどの加工時に、材料の加工エッジに生じる微細な突起やめくれ上がった部分を指します。英語では「burr(バリ)」と呼ばれますが、日本の製造業現場では「カエリ」という言葉も一般的に使われています。

金型加工では、主に放電加工(EDM)やワイヤーカット、フライス加工、研削加工などの工程において、エッジ部やコーナー部にカエリが生じることがあります。特に細かい形状や薄肉部、硬い材料を加工する場合、カエリの発生リスクは高まります。
◆ カエリの発生原因
金型加工におけるカエリの発生要因は、加工方法と材料の特性に強く依存します。主な原因は以下の通りです:
切削時の工具摩耗 工具の切れ味が悪くなると、切削時に材料をきれいに切ることができず、素材が「押し出される」ような形でカエリが発生します。
送り速度や切削条件の不適正 送り速度が速すぎたり、切込み量が大きすぎたりすると、材料に余分な負荷がかかり、カエリの発生を助長します。
ワイヤーカットでの仕上げ回数不足 荒加工だけで終了すると、ワイヤーカット特有のカエリがエッジ部に残りやすくなります。
熱影響 放電加工では、局所的な高温により材料表面が溶解・再凝固します。その際、表面に微細な突起(カエリ)が形成されることがあります。
◆ カエリがもたらす問題点
カエリは一見すると小さな突起にすぎませんが、金型の品質と耐久性、さらには成形品そのものに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
問題 | 内容 |
成形品への転写 | 成形時にカエリがそのまま樹脂に写り込み、不要なバリとなることがある |
パーティング面の密閉不良 | カエリがあると型締め時に隙間ができ、フラッシュ(バリ成形)の原因に |
金型の組立不良 | 部品の嵌合部にカエリがあると正確に組み付けできない |
コーティング・メッキ障害 | カエリ部分に皮膜がうまく乗らず、剥離や異常成膜の原因に |
工具損傷や作業者のケガ | カエリにより工具の寿命が縮んだり、作業者が指を切る危険もある |

◆ カエリの除去方法(バリ取り)
金型加工においては、カエリの除去は仕上げ工程として欠かせない作業です。主な除去方法は以下の通りです。
1. 手作業(ヤスリ・ペーパー)
熟練工が目視で確認しながらバリを除去する方法。小ロットや精密部品に有効だが、作業時間がかかる。
2. 精密研磨(ストーン・ラッピング)
砥石やラップで面を均す。パーティング面やコアピンなどに適用される。
3. 電解バリ取り(ECM)
電解液を用いて、微細で複雑な部位のカエリを均一に除去できるが、コストや設備が必要。
4. ワイヤーカットによる仕上げ加工
ワイヤーカットの仕上げ回数を増やすことで、カエリの発生を最小限に抑えられる。
◆ カエリの発生を抑えるための加工設計の工夫
● 工具選定とメンテナンス
高硬度の金型用鋼を切削する際は、耐摩耗性の高いコーティング工具や超硬工具を用い、定期的な再研磨を行うことでカエリの発生を抑制できます。
● 加工順序の最適化
荒加工と仕上げ加工の順番、加工方向などを考慮し、カエリが最終面に残らないように配慮する必要があります。
● 面取り・R加工の追加
特に嵌合部やパーティングライン部には、設計段階であらかじめ面取りやRを付けておくと、カエリが発生しにくくなります。
◆ まとめ
金型加工における「カエリ」は、目立たない存在ながらも、製品品質・金型性能に大きな影響を与える重要な要素です。加工条件の見直し、適切な工具の選定、除去作業の徹底、さらには設計段階での配慮によって、カエリの発生を最小限に抑えることができます。
精度が求められる金型こそ、カエリの管理が製品全体の信頼性につながるといえるでしょう。製造現場においては、「見えない品質」の象徴として、今後もカエリ対策は欠かせないテーマです。