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射出成形における「残留応力」とは? 無くすことは出来るのか?

プラスチック製品をつくる方法のひとつに「射出成形(しゃしゅつせいけい)」という方法があります。私たちの身の回りの多くのプラスチック製品――例えば、ボールペンのキャップやゲーム機のコントローラー、車の部品やお弁当箱のフタなど――はこの方法でつくられています。

身の回りのプロスチック製品

でもこの射出成形には、「残留応力(ざんりゅうおうりょく)」という、ちょっと困った現象がつきものです。この記事では、この残留応力とは何か、そしてそれをなくすことはできるのか?について例を交えながら解説していきます。


残留応力とは?

まず、言葉の意味から見ていきましょう。

残留」=あとに残る「応力」=物体の中にかかっている力

つまり「残留応力」とは、ものの中に、見えない力が残っている状態のことを言います。

たとえば、ゼリーやチョコレートを型に流して冷やすとき、外側から先に冷たくなって固まり、内側はあとから固まりますよね。このとき、外側は「早く縮もう!」とするけれど、内側は「まだ熱いよ〜」と縮むのをがんばって止めているような状態になります。

チョコートを作る過程で発生する残留応力

このように、外と中で冷え方や縮み方がちがうと、材料の中で引っぱったり、押し合ったりする力が生まれてしまうのです。この力が、冷えたあとも中に残ってしまう――これが残留応力です。


プラスチックの中でもおきる!

射出成形では、プラスチックを高温で溶かして型に流し込み、冷やして固めて製品をつくります。でも、ゼリーやチョコと同じように、プラスチックの外側と内側では冷える速さがちがいます。

このため、

  • 外側はすぐに冷えて縮もうとする

  • 内側はまだ熱くて縮まない

という状態になります。すると、材料の中で「縮もうとする力」と「縮みたくない力」がケンカして、内部に力がたまるのです。

また、プラスチックが金型の中を無理に流れたときにも、分子の向きがバラバラになって、力のバランスがくずれたまま固まることがあります。これも残留応力の原因になります。


残留応力があるとどうなるの?

残留応力があると、目には見えないけれど、製品の中で「引っぱり合う力」や「押し合う力」が働いています。これが原因で、こんなトラブルが起きることがあります。

  • 💥 割れやすくなる(クラック)→ 力を加えていないのに突然ひびが入ることも。

  • 🌀 反りや変形が起きる→ 成形直後は平らだった板が、時間がたつとゆがんでしまう。

    反りや変形が起きている成形品
  • 🛠 加工しづらくなる→ 切削や溶着などのあとで形がズレたり、再び変形したりすることも。


残留応力をなくすことはできるの?

残念ながら、残留応力を完全になくすことはほぼ不可能です。なぜなら、どんな材料でも冷えるときに必ず縮むからです。そして、縮み方が場所によってバラバラになると、応力が生まれてしまうのです。

しかし、できるだけ少なくする工夫はできます!


残留応力を減らすための工夫

① ゆっくり冷やす

急激に冷やすと、外側と内側で温度差が大きくなり、応力が発生しやすくなります。

➡ 金型の温度を上げたり、冷却時間を長くしたりすることでバランスよく冷却できます。

つまり、成形サイクルを短くするために型温をむやみに下げると材料にストレスのかかる

成形になってしまうのです


② 金型温度を均一に保つ

流動・冷却の過程でムラがあると応力につながります。特に深さがある形状の場合、金型温度の温度差が大きくなる傾向にあります

➡ 金型の冷却水配管やゲート位置を工夫することで均一化が図れます。

3D水管の金型の画像

③ 成形条件を最適化する

射出圧力や射出速度を調整し、プラスチックの流れ方(流動長)を均一にすることで、分子配向やひずみを抑えることができます。


④ アニール処理を行う

成形後に再加熱し、分子をリラックスさせる方法です。ただし、コストや形状によっては実施が難しい場合もあります。アニール処理については➡こちら


まとめ:残留応力とうまくつき合う

射出成形における「残留応力」は、ものづくりの中で避けて通れない問題です。完全に「ゼロ」にすることはできなくても、トラブルを防ぐために「最小限におさえる」ことがとても大切です。

私たちが何気なく使っているプラスチック製品。その見えない中身には、材料の性質や冷却の工夫、成形の技術など、たくさんの知恵がつまっています。

だからこそ、残留応力について理解し、それを減らす工夫を積み重ねることが、より良い製品づくりにつながるのです。

もし製品が急に割れてしまったり、形がゆがんでしまったりしたら、「あっ、残留応力のせいかも?」と気づけるかもしれませんね。

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