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ホットランナー用 超ハイワットヒーターの開発

~高速昇温と省エネを両立した革新的ソリューション~

近年、製造業界では脱炭素化・省エネ・生産性向上が重要な課題として浮上している。とりわけ射出成形現場では、多品種少量生産への対応や金型交換頻度の増加により、「いかに立ち上げ時間を短縮し、ムダな待機時間をなくすか」が競争力の鍵を握る。

こうした背景を受け、S-VANCE社ではホットランナーシステム向けの「超ハイワットヒーター」の開発に着手。5分以内に220℃まで昇温し、段取り時間内に成形準備を完了させるという、従来にない高性能なヒーターシステムの実現を目指した。


背景と開発の狙い

ヒーター昇温時間のグラフ

従来のホットランナーは、昇温に約20分を要し、金型交換後の成形開始が遅れることが生産効率のボトルネックとなっていた。特に少量多品種生産では1日に複数回の金型交換が発生し、昇温にかかる時間の累積が大きなロスとなる。

この課題を解決するために、S-VANCEは「5分以内に220℃へ到達」「高速昇温でも安全制御可能」という2つの目標を掲げて開発に取り組んだ。


開発における課題と試行錯誤

セラミックヒーターの構造

初期段階では、セラミックヒーターによる高ワット密度化を検討。セラミックは昇温速度が速く、断線も少ないという特長を持つ。しかし実際には以下のような多くの課題に直面した。

  • 外径精度の低さや衝撃への弱さ

  • 急速な昇温によるヒートショックによるクラック発生

  • 充填材が密にならず熱伝導効率が低い

  • ヒーター内温度とブロック温度の乖離

これらの要因により、セラミックヒーターは試作段階で断線や熱暴走を起こすなど、実用化には至らなかった。高温環境下での耐久性や、安全な温度制御を実現するための専用コントローラーの設計も必要だった。


カートリッジヒーターへの転換と改良

カートリッジヒーターの構造

試行錯誤の末、方針を転換し、従来のカートリッジヒーターをベースに「1000W対応の高出力化」を実施。さらに以下の改善を重ねた。

  • 充填材を高圧縮化し熱伝導性を向上(高温対応マグネシアを使用)

  • ニクロム線の巻き方を最適化し、断線リスクを軽減

  • ヒーター内温度を監視するセンサーを内蔵

これらの改善により、従来20分かかっていた昇温時間は、わずか3分15秒に短縮され、耐久試験でも断線が確認されなかった。温度上昇の滑らかさや安定性、安全性のいずれも、期待を上回る性能を実証した。


効果と導入メリット

金型交換の様子

この超ハイワットヒーターには、次のような大きな導入メリットがある。

  1. 段取り時間の大幅短縮 金型交換(5分)の間に昇温が完了するため、立ち上げロスがゼロに。1日5回の型交換を想定した場合、年間で約245時間もの稼働時間を新たに生産へ振り分けることができる。

  2. 電力消費の削減 予備昇温を削減・廃止することで電力量も削減可能。想定では、年間約15万円の電力費削減が見込まれている。

  3. 高混成・少量生産への最適化 金型交換が頻繁な業態において、昇温待ちのストレスが解消され、生産性向上に直結する。

  4. 安全性の確保 専用コントローラーによるヒーターとホットランナーブロックの温度監視により、熱暴走を防止。今後はインターロック機能など、さらなる安全対策が強化される予定である。


今後の展開と特許申請

本開発プロジェクトは2023年時点で試作・耐久評価フェーズを完了し、現在は顧客向け提案およびカスタムコントローラーの開発段階に入っている。特に多品種少量生産に対応する顧客に向けて、制御仕様のカスタマイズや制御装置の特許出願(2023年11月予定)も進行中である。

S-VANCEは今後、この超ハイワットヒーターを新たな標準仕様として、ホットランナーシステムに組み込み、省エネ型の高効率成形ソリューションとして市場展開を加速させる構えだ。

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