紫外線(UV)がプラスチックに与える影響
- SANKO GOSEI
- 7月18日
- 読了時間: 4分
― 劣化メカニズムから対策まで、身近な事例で解説 ―
私たちの生活に欠かせない「プラスチック」。その軽さ、成形性、耐水性、そしてコストの安さから、家電製品、自動車部品、日用品、建材、包装材などさまざまな分野で使用されています。しかし、そんな便利なプラスチックにも弱点があります。その一つが「紫外線(UV)による劣化」です。
この記事では、紫外線がプラスチックに与える影響について、劣化の仕組みや具体的な現象、身近な劣化例を交えて分かりやすく解説し、最後にその対策についてもご紹介します。
1. 紫外線とは?
紫外線とは、太陽光に含まれる不可視光線の一種で、波長はおよそ100〜400ナノメートル(nm)の範囲です。波長によって以下の3種類に分類されます。
UV-A(315〜400 nm):地表に届く紫外線の約95%。皮膚の奥まで届き、光老化の原因。
UV-B(280〜315 nm):残りの約5%。皮膚へのダメージが大きく、日焼けやDNA損傷を引き起こす。
UV-C(100〜280 nm):オゾン層でほとんど吸収され、地表には到達しない。
このうち、UV-AとUV-Bが地表に到達し、プラスチックにさまざまな影響を及ぼします。

2. プラスチックに与える主な影響
紫外線がプラスチックに照射されると、主に以下のような劣化が進行します。
① 黄変(変色)

白色だったプラスチックが黄色〜茶色に変色する現象です。これは、紫外線によって分子構造が変化し、可視光の吸収特性が変わるために起こります。
身近な例:
屋外に置いた透明の収納ボックスが、数か月で黄色く変色。
自動車のヘッドライトカバーが曇ったように黄ばんでくる。
② 脆化(もろくなる)

紫外線は高分子の化学結合を切断し、分子量を下げます。その結果、柔軟性を失い、割れやすくなります。
身近な例:
ベランダに長期間置いたプラスチック製の洗濯ばさみが、ある日突然ポキッと割れる。
園芸用プランターの縁が欠けやすくなる。
③ クラック(微細なひび割れ)
表面に小さな亀裂(クラック)が入り、最終的に割れてしまうこともあります。紫外線による劣化に加え、温度変化や水分も影響します。
身近な例:
公園のベンチの樹脂製パーツに入ったひび割れ。
屋外広告のプラスチックカバーが細かく割れてくる。
④ チョーキング現象

表面が粉を吹いたように白っぽくなる現象。分解生成物が表面に残って起きます。
例:
建築用パネルやサイディングの劣化で白い粉が付着。
3. 紫外線に弱いプラスチックと強いプラスチック
すべてのプラスチックが同じように紫外線に弱いわけではありません。樹脂の種類によって耐候性は大きく異なります。
材料名 | 紫外線への耐性 | 備考例 |
ポリプロピレン(PP) | 弱い | 安価で多用途だが、屋外ではすぐに劣化 |
ポリスチレン(PS) | 弱い | 透明性は高いが、黄変と割れやすさが課題 |
ABS樹脂 | 中程度 | 耐衝撃性は高いが、光安定剤がないと黄変しやすい |
ポリカーボネート(PC) | 中程度 | 高強度だが、黄変と透明性低下が起きやすい |
アクリル(PMMA) | 強い | 光学用途にも使われる。屋外でも比較的安定 |
フッ素樹脂(PTFE) | 非常に強い | 化学的にも紫外線的にも安定。高価で特殊用途向け |
4. 紫外線劣化の化学的メカニズム
紫外線が高分子に当たると、以下のような反応が起こります。
エネルギー吸収 分子がUV光のエネルギーを受けて励起状態になる。
結合切断(チェーンスカッション) 分子鎖が切断され、ラジカルが発生。
酸化反応(光酸化) 酸素と反応して分解が進行。新たな構造変化を引き起こす。
これが繰り返されることで、分子構造がボロボロになり、色・強度・柔軟性のすべてが失われていきます。
5. 紫外線劣化を防ぐ方法
プラスチック製品の劣化を防ぐためには、設計段階での工夫や適切な材料選定、処理が重要です。
(1)UV吸収剤の添加
紫外線を吸収して熱に変換し、主材料への影響を防ぎます。ベンゾトリアゾール系などが一般的。
(2)光安定剤(HALS)の使用
ラジカルを除去することで酸化反応を阻止。UV吸収剤と併用されることが多い。
(3)耐候性グレードの選定
屋外用途では、メーカーが提供する「耐候性グレード」の樹脂を使用するのが効果的。
(4)表面コーティング
UVカットフィルムや塗料で表面を保護する方法も有効です。
(5)構造設計
日光の直射を避ける構造にしたり、交換しやすい部品に分けておくなど、設計の工夫も重要です。
6. まとめ:紫外線劣化は避けられないが、制御できる
プラスチックは、紫外線によって変色・脆化・ひび割れなどの劣化を起こし、製品寿命を大きく左右します。しかしその劣化現象は予測可能であり、設計や材料選定、添加剤処方によってある程度コントロールできます。
日常生活の中で、黄ばんだプラスチックケース、割れてしまったベランダ用品を見るたびに、それが紫外線の影響だと気づくと、設計や材料への理解も深まるはずです。
「便利」と「長寿命」は両立可能です。紫外線という自然の力にどう向き合うか、それがプラスチック製品をより長持ちさせるカギとなります。