改善事例:金型冷却配管洗浄による冷却効率の向上
- SANKO GOSEI
- 4 日前
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はじめに
金型の冷却効率は、射出成形における製品品質とサイクルタイムを左右する非常に重要な要素です。特に近年では、複雑な製品形状に対応するために3D冷却配管を備えた金型の使用が増えてきており、配管内のスケールやサビの堆積による冷却不良が問題となっています。本記事では、量産金型に対し実施された冷却配管洗浄の事例を紹介し、具体的な改善内容とその効果を解説します。
背景:3D冷却配管の普及と問題の顕在化
本記事で紹介する金型では、狭いスペースへの対応が必要となるため、φ1.5mm程度の非常に細い3D冷却配管が採用されてきました。成形後に金型を長期間保管していたことで、冷却配管内にスケールやサビが蓄積し、水流の著しい低下を招き、結果として冷却効率が大きく低下。成形不良の増加やサイクルタイムの延長という課題が発生しました。

導入されたソリューション:ウォーターリーマー
この課題に対処するため、専用の洗浄装置「ウォーターリーマー」が導入されました。この装置は以下の特徴を持っています

非分解洗浄が可能:金型を分解せずに洗浄ができ、作業の手間を大幅に削減
4時間の洗浄工程+2時間の乾燥工程:比較的短時間で完了
流量計を併用可能:洗浄前後の水流量を数値で管理でき、メンテナンスの効果を可視化
防錆皮膜の形成:洗浄後はサビの再発防止にも寄与
ケーススタディ①:ジョイント製品金型(3D配管・φ1.5mm)
この金型は2017年製で12万ショット以上使用されており、スライド部に細い3D冷却配管を持っていました。洗浄前の流量は0.2L/minと極めて低く、冷却が不十分なため成形不良が頻発していました。

洗浄結果:

流量:0.2L/min → 0.5L/min に増加
状態:連続成形が可能なレベルまで回復
この洗浄によって、金型の再製作(約45万円のコスト)を回避することができ、大きなコスト削減につながりました。
ケーススタディ②:ケース製品金型(冷却パイプ・φ2mm)
2012年製で60万ショット以上成形された金型。全長130mmの冷却パイプを使用しており、洗浄前は流量が0.3L/min。奥のリブにボイド(空洞)不良が発生しており、サイクルタイムを70秒まで延長して対応していました。

洗浄結果:

流量:0.3L/min → 0.6L/min に増加
サイクルタイム:70秒 → 63秒 に短縮
不良率:ボイド不良ゼロに改善
月9000ショット換算で年間37.8万円相当の改善効果が算出されました。
ケーススタディ③:ケース製品金型(バッフル冷却・サビ)
2005年製、70万ショットの古い金型で、バッフル冷却方式が採用されています。昇温に1時間30分を要し、重量不良のために毎回8ショットを廃棄する状況でした。
また、成形品には冷却不足によるものと思われる湯ジワが発生しています。

洗浄結果
流量:0.2L/min → 1.1L/min に増加
昇温時間:90分 → 60分 に短縮
捨てショット:8個 → 3個 に削減
製品重量:1g増加(基準内)

不良100個/月 × 130円 × 12ヶ月=15.6万円相当、さらに昇温時間の短縮や捨てショット削減を加えると、年間約63万円相当の改善効果となりました。
結果と総合効果
これら3事例の改善効果を合計すると、年間約105.84万円のコストメリットが得られたと試算されています。特に、洗浄前後の比較写真では、まるで鍾乳洞のようにサビがびっしり付着した配管が、洗浄後には黒く清浄な状態に変化していることが確認できます。
今後の展望と運用への定着
従来はドリルや棒による手作業の洗浄が主流でしたが、ウォーターリーマーの導入により、分解不要のメンテナンスが可能になりました。さらに、流量計による定量的な記録が可能となり、金型の劣化傾向を「見える化」するメンテナンスカルテの作成にも繋がっています。
また、新型金型への適用により、スケールやサビの予防にもなり、金型寿命の延長と安定稼働にも寄与することが期待されています。
まとめ
金型の冷却配管洗浄は、単なるメンテナンスではなく、製品品質と生産効率に直結する戦略的な改善活動です。今回紹介したウォーターリーマーによる洗浄は、3D冷却配管などの難洗浄部位にも対応できる有効な手法であり、今後の射出成形現場における重要な設備となり得るでしょう。