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射出成形金型における「冷却プロセス」の本質

はじめに

冬場、同じ外気温のはずなのに、金属の手すりに触れると木製の手すりよりも強く冷たさを感じた経験は誰にでもあるでしょう。この現象は日常的でありながら、実は射出成形における金型冷却設計の本質を非常に分かりやすく説明してくれる好例です。

射出成形では「冷却」が成形サイクル、寸法精度、反り、ヒケ、内部応力といった品質要素を大きく左右します。本記事では、人が金属を冷たく感じる理由を起点に、金型冷却で何が起きているのかを感覚的かつ工学的に整理していきます。


1. 人は「温度」ではなく「熱の移動」で冷たさを感じる

体感温度の違い

金属と木が同じ温度であっても、金属の方が冷たく感じる理由は、熱伝導率の違いにあります。人の手は約32~36℃ですが、金属に触れた瞬間、手の熱は急速に金属側へ移動します。一方、木は熱を伝えにくいため、手の熱が奪われる速度が遅く、冷たさをあまり感じません。

熱伝導率の違いによる熱の移動量の違い

ここで重要なのは、人が感じる「冷たい」「熱い」は、物体の温度そのものではなく、熱がどれだけ速く移動するかで決まるという点です。


2. この感覚は射出成形の冷却現象と全く同じ

射出成形において、溶融樹脂は金型に充填された瞬間から冷却が始まります。金型は通常鋼材で作られており、樹脂に比べて圧倒的に熱伝導率が高い材料です。

これはちょうど、

  • 人の手=溶融樹脂

  • 金属の手すり=金型

と置き換えることができます。樹脂は金型に触れた瞬間、急速に熱を奪われ、固化へ向かいます。この「どれだけ速く熱が抜けるか」が、成形品質を左右する最大の要因の一つです。


3. 金型冷却の役割は「温度を下げる」ことではない

金型冷却というと、「樹脂の温度を下げること」が目的だと誤解されがちです。しかし実際には、樹脂の熱をいかに効率よく、かつ均一に奪うかが本質です。

射出成形金型の画像

金型温度が同じでも、

  • 冷却回路の位置

  • 冷却水の流速

  • 金型材質

  • 肉厚差

によって、樹脂から奪われる熱量・速度は大きく変わります。これは、同じ温度の金属でも、分厚い金属板と薄い金属板では「冷たさの感じ方」が異なるのと同じ理屈です。


4. 冷却が不均一な場合に起こる問題

冷却が不均一になると、以下のような不具合が発生します。

変形した成形品の画像
  • 反り:冷える速度の差による収縮差

  • ヒケ:厚肉部での冷却遅れ

  • 内部応力:急冷部と緩冷部の差

  • 寸法ばらつき:ロット間安定性の低下

これは、金属の一点だけを急激に冷やした場合、内部に歪みが残るのと同じ考え方です。つまり、冷却とは「強く冷やす」ことではなく、「バランスよく熱を逃がす」ことなのです。


5. 冷却回路設計は「熱の流れ」を設計する作業

優れた冷却回路とは、単に水路を多く配置することではありません。重要なのは、樹脂 → 金型 → 冷却水という熱の流れを意識した設計です。

3Dプリンターによる冷却水管の画像
  • 熱が集中する肉厚部に冷却を近づける

  • 冷却が効きすぎる箇所を作らない

  • 流速を確保し、温度ムラを防ぐ

これらはすべて、「金属がなぜ冷たく感じるか」を理解していれば直感的に説明できます。


6. 成形サイクル短縮と冷却の関係

射出成形のサイクルタイムの中で、冷却時間が占める割合は非常に大きく、場合によっては全体の6~7割を占めます。冷却効率が上がれば、単純に成形時間が短くなり、生産性が向上します。

しかし、冷却を無理に強化すると、

  • 表面は固まるが内部が冷えきらない

  • 内部応力が増加する

といった問題も発生します。ここでも重要なのは、「冷やし方の質」です。


7. 身近な感覚を技術に落とし込む意義

金属が木材よりも冷たく感じるのは私たちが身近に体験できる現象です。

しかし、その背景には、射出成形でも使われている熱移動の物理法則が存在します。

このような感覚的理解を持つことで、

  • なぜ冷却不良が起きるのか

  • なぜ冷却回路変更で反りが改善するのか

といった現象を、数式だけでなく「納得感」を持って説明できるようになります。


おわりに

射出成形における冷却は、単なる付帯工程ではなく、成形品質と生産性を決定づける中核技術です。金属が冷たく感じる理由を起点に考えることで、冷却設計の本質がより立体的に理解できるはずです。

身近な感覚と工学を結びつけることが、現場で活きる技術理解につながります。

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