用語解説:動的粘弾性測定(DMA)とは?
- SANKO GOSEI
- 13 時間前
- 読了時間: 6分
樹脂の「硬さ」と「ねばり」を見える化する評価方法を分かりやすく解説
プラスチック材料を扱う現場では、「この樹脂は高温で柔らかくなりやすい」「この材料は衝撃に強い」「常温では硬いのに、少し温度が上がると急に変形しやすくなる」といった性質の違いが、成形性や製品品質に大きく影響します。こうした違いを正しく把握するために用いられる評価方法の一つが動的粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)です。
名前だけ聞くと難しそうに感じますが、DMAは簡単に言えば、材料に小さな振動を与え、そのときの変形のしやすさや応答の遅れを調べる試験です。これにより、樹脂が持つ弾性(元に戻ろうとする性質)と、粘性(変形が遅れてついてくる性質)の両方を評価できます。
今回は、動的粘弾性測定の基本的な考え方、何が分かるのか、そして射出成形や材料評価にどう役立つのかを、できるだけ分かりやすく解説します。
樹脂は「弾性体」と「粘性体」の両方の性質を持っている
まず、DMAを理解するうえで大切なのが、樹脂は純粋な固体でも純粋な液体でもないという点です。

例えば、バネのような理想的な固体は、力を加えるとすぐに変形し、力を抜けばすぐに元に戻ります。これは弾性体のイメージです。

一方で、水あめやオイルのような物質は、力を加えるとゆっくり流れ、元の形には戻りません。こちらは粘性体です。
しかし、実際のプラスチック材料はこの中間にあります。つまり、
一部はバネのように元に戻ろうとする
一部は粘り気を持って遅れて変形する
という、粘弾性体としての挙動を示します。
DMAは、この「弾性」と「粘性」を分けて評価できる点が大きな特長です。
動的粘弾性測定(DMA)の基本原理
DMAでは、試験片に対して非常に小さな周期的変形を与えます。たとえば、引張、曲げ、せん断、圧縮などの方法で、一定の周波数の振動を加え、そのとき材料がどのように応答するかを測定します。
ここで注目するのは、入力した変形と材料が返す力の応答の間に、時間的なズレが生じることです。

完全な弾性体なら、変形を与えた瞬間に同じタイミングで力が返ってきます。ところが、樹脂のような粘弾性体では、内部に分子鎖の動きや摩擦があるため、応答が少し遅れます。このズレを位相差と呼びます。
この位相差を解析することで、DMAでは主に次の3つの値が求められます。

1. 貯蔵弾性率(E’)
材料が受けたエネルギーのうち、弾性的に蓄えられる成分です。値が高いほど、材料は硬く、変形しにくいと考えられます。
2. 損失弾性率(E”)
加えたエネルギーのうち、熱などとして失われる成分です。内部摩擦や分子の動きに関係しており、材料の粘性的な性質を示します。
3. tanδ(タンデルタ)
損失弾性率を貯蔵弾性率で割った値で、粘性と弾性のバランスを表します。tanδが大きいほど、粘性的な挙動が強い材料といえます。
DMAで何が分かるのか
DMAの大きな魅力は、単に「硬い・柔らかい」を調べるだけではなく、温度によって材料特性がどう変化するかを細かく見られることです。
特に重要なのが、**ガラス転移温度(Tg)**の把握です。
樹脂は低温では硬くてガラスのような状態ですが、温度が上がると分子鎖が動きやすくなり、ゴムのように柔らかい状態に近づいていきます。この変化が起こる温度域がガラス転移温度です。DMAでは、E’の低下やtanδのピークとして、このTgを明瞭に捉えることができます。
さらに、DMAでは次のような情報も得られます。
使用温度域での剛性変化
材料の耐熱性の目安
分子構造の違いによる挙動差
充填材やガラス繊維添加の影響
劣化前後の材料変化
異なるグレード間の性能比較
つまりDMAは、樹脂材料の「見た目」では分からない内部の特性変化を、温度軸で可視化できる評価手法といえます。
射出成形においてDMAが役立つ理由
射出成形では、樹脂が加熱・溶融され、金型内に流れ込み、冷却されて固化します。この一連の工程では、材料の粘弾性特性が大きく関係します。
例えば、ある樹脂が成形温度付近でどの程度やわらかくなるのか、冷却中にどの温度域で急に硬くなるのかが分かれば、次のような検討に役立ちます。
▸成形条件の最適化
DMAで材料の温度依存性を把握しておけば、樹脂温度、金型温度、冷却条件の考え方に根拠を持たせやすくなります。特に、温度設定によるそり、寸法安定性、離型性への影響を考える際に有効です。
▸材料選定の比較
同じ用途でも、樹脂グレードによってTgや剛性の温度変化は異なります。DMAデータを比較することで、「常温では十分な剛性があるか」「高温環境で性能が落ちすぎないか」などを判断しやすくなります。
▸不良要因の考察
成形品の変形、たわみ、割れ、異音などのトラブルは、単なる強度不足だけでなく、粘弾性挙動に起因する場合があります。DMAはその背景を探る手掛かりになります。
具体例:温度上昇で剛性が急低下する材料
例えば、ある樹脂を常温では十分硬い材料だと考えていても、DMAを行うと60℃付近から急激に貯蔵弾性率が低下するケースがあります。この場合、室温では問題なく使えても、夏場の車内や装置内部の発熱環境では、想定以上に変形しやすくなるおそれがあります。
引張試験や曲げ試験は、ある決まった温度条件での強さを見るには有効ですが、DMAは温度変化に伴う連続的な特性の変化を見られる点が強みです。製品の使用環境を意識した評価を行ううえで、非常に実用的な方法といえるでしょう。
DMA測定でよく使われる試験モード
DMAにはいくつかの測定モードがあります。代表的なものは次の通りです。
引張モード
フィルムや薄板など、引っ張って評価しやすい試験片に用いられます。
3点曲げモード
樹脂板材などでよく使われ、剛性変化を見やすい方法です。
片持ち梁モード
試験片の片側を固定して振動させる方法で、比較的よく使われます。
せん断モード
ゴムや柔らかい材料の評価に適しています。
材料形状や硬さ、知りたい特性に応じて、適切なモードを選ぶことが重要です。
DMAを見るときの注意点
DMAは便利な手法ですが、数値だけを単純比較すると誤解を招くことがあります。測定結果は、試験片形状、周波数、昇温速度、測定モードなどの条件に影響されるためです。
そのため、データを評価する際には、
同じ条件で比較しているか
試験片寸法に差がないか
周波数条件が実使用に近いか
tanδピークをどの温度として読むか
といった点に注意が必要です。
特にTgは、測定法によって定義温度が少し異なる場合があります。E’の変曲点で見るのか、tanδピークで見るのかを整理しておくことが大切です。
まとめ
動的粘弾性測定(DMA)は、材料に微小な周期変形を与え、応答のズレを測ることで、樹脂の弾性と粘性を分けて評価する手法です。
この測定によって、
材料の硬さの温度依存性
ガラス転移温度(Tg)
内部摩擦の大きさ
使用環境での変形しやすさ
材料グレードや劣化状態の違い
などを把握することができます。
射出成形の現場でも、DMAは単なる材料試験ではなく、材料選定、成形条件の検討、不良解析、製品信頼性評価につながる重要な評価手法です。樹脂の性質をより深く理解したいとき、DMAは非常に強力なヒントを与えてくれます。
「この材料はなぜこの温度で急に弱くなるのか」「なぜ常温では問題ないのに高温環境で変形するのか」といった疑問に対して、DMAは分かりやすい答えを示してくれるはずです。






コメント