熱硬化性樹脂は、加熱により硬化して強固な形状を維持する特性を持つ材料であり、産業界で広く活用されています。その優れた特性から、電子機器、自動車部品、建築材料などさまざまな分野で重宝されています。本記事では、熱硬化性樹脂の基本から、成形技術、応用事例、メリットと課題までを詳しく解説します。
熱硬化性樹脂とは?
熱硬化性樹脂(Thermosetting Resin)は、熱や化学反応によって硬化するポリマー材料です。一度硬化すると再び加熱しても軟化せず、耐熱性や機械的強度が非常に高いことが特徴です。
代表的な熱硬化性樹脂
エポキシ樹脂
接着剤や電子封止材に使用される。
フェノール樹脂
電気絶縁性や耐熱性が高く、自動車や電気部品に活用される。
不飽和ポリエステル樹脂
FRP(繊維強化プラスチック)として船舶や建材に使用される。
シリコーン樹脂
柔軟性と耐熱性を兼ね備えた特殊用途向け材料。
熱硬化性樹脂の射出成形技術
熱硬化性樹脂の射出成形は原理的には熱可塑性樹脂の射出成形加工とほとんど同じで、実際の操作工程も良く似ています。しかし、材料の温度コントロールの面で、射出装置に大きな特徴があります。
熱硬化性樹脂の射出成形では、ノズルから射出される材料の温度は高い場合でも130℃までの半溶融状態のものになります。これは、硬化反応が進み過ぎて急速に流動性を失い、金型に完全に充填出来なくなることを防ぐためです。
この場合、加熱シリンダー内の材料は予熱されているのみです。
図1:移出成形行程中の材料温度の上昇
図1は成形機のホッパに供給された室温のフェノール樹脂が、加熱シリンダー外部(バンドヒータ)からの加熱とスクリューの混錬作用とによって次第に温度が上昇していく様子を表したものです。
図2:加熱シリンダーの温度コントロール例
また、図2はこのような温度コントロールを行う方法の一例であり、外周にバンドヒータを装備したリング状ジャケット数個をシリンダーに取り付け、その内部に水または油を循環させるなどして材料を加熱するものです。
熱硬化性樹脂においても、一般にはスクリュー式射出成形機が使用されていますが、BMCを射出成形する場合には、充填されている長いガラス繊維の損傷を少なくする目的で、一部ではプランジャー式射出成形機も使用されています。
成形材料と成形条件
熱硬化性樹脂のうち、現在、射出成形に最も多量に使用されているのはフェノール樹脂です。他にはジアリルフタレート樹脂(DAP)もかなり使われており、ごく一部の用途ではメラミン樹脂、フェノール樹脂も使われています。
また、不飽和ポリエステル樹脂は、ペレット状にした乾式材料が軽電機機器部品用に、また、長いガラス繊維を充填したパテ状の材料が高い機械的強さや耐熱性を要する分野に応用されている。下記に代表的な成形材料の標準的な成形条件を示す。
表1:代表的な成形材料の標準成形条件
熱硬化性樹脂の射出成形は、圧縮成形に比べて量産性に優れるが、機械的性質を必要とする分野では、強度不足や配向による変形、高湿下の経時変化などの問題が生じます。これらを改善するために、射出圧縮成形の実用が進んでいる。また、熱硬化性樹脂はガス発生も多く、金型にエアベントを設けているが、複雑な形状の場合にはガスが抜けきらないため、キャビティの真空吸引も考えられている。
熱硬化性樹脂のメリット
熱硬化性樹脂には、以下のような多くのメリットがあります。
1. 優れた耐熱性
熱硬化性樹脂は、高温環境でも形状を維持するため、エンジン周辺部品や電子機器に最適です。
2. 高い機械的強度
硬化後の熱硬化性樹脂は非常に強固で、衝撃や摩耗にも耐えるため、耐久性が要求される用途に向いています。
3. 電気絶縁性
フェノール樹脂やエポキシ樹脂は優れた絶縁性を持ち、電気部品や回路基板で広く活用されています。
4. 化学耐性
化学薬品に対する耐性が高く、腐食環境下でも性能を発揮します。
上記のメリットから自動車用のキャリパーピストンにも採用された事例がある。
熱硬化性樹脂の応用分野
熱硬化性樹脂は、以下のような幅広い分野で使用されています。
電子機器 半導体封止材、プリント基板、絶縁部品。
自動車 エンジン部品、ライトリフレクター、内装部品。
航空宇宙 軽量で強度が高い複合材料部品。
建築 耐久性の高い建材や断熱材。
医療 耐薬品性と生体適合性を持つ医療機器部品。
熱硬化性樹脂の課題と対策
1. 再加工ができない
硬化後は再び軟化しないため、廃棄時のリサイクルが難しい。
対策:リサイクル可能な材料開発や、部品の長寿命化による廃棄物削減。
2. 成形時間の長さ
硬化プロセスに時間がかかるため、生産効率が低下する可能性があります。
対策:硬化時間を短縮する新しい樹脂や成形技術を採用。
3. 金型の摩耗
熱硬化性樹脂は硬度が高く、金型への負荷が大きい。
対策:耐摩耗性のある金型材料を使用し、定期的にメンテナンスを実施。
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