射出成形は、プラスチック製品を効率的かつ正確に作り出すプロセスとして、さまざまな産業で活躍しています。その中でも「キャビティ内圧」は、成形品の品質を左右する重要な指標です。今回は、このキャビティ内圧について、その役割や波形の読み解き方を詳しく解説します。
キャビティ内圧とは?
キャビティ内圧とは、射出成形中にキャビティ(成形品の形を作る金型内の空間)内で発生する圧力のことです。この圧力は、射出工程から保圧工程を経て、冷却工程に至るまでの成形プロセス全体で変化します。キャビティ内圧の測定と解析は、成形品の精度や品質の安定性を確保するためのカギとなります。
下記のグラフはこの記事で紹介するキャビティ内圧の変化のグラフになります。
射出成形プロセスとキャビティ内圧の関係
射出成形では、主に以下の3つの工程でキャビティ内圧が変化します。それぞれの工程におけるキャビティ内圧の特徴を見ていきましょう。
1. 射出工程
射出工程では、樹脂が加熱され、溶融状態となった後、スクリューの動きによってキャビティ内に高速度で射出されます。
キャビティ内圧の特徴:
キャビティ内に樹脂が流れ始めると、内圧が急激に上昇します。この圧力の上昇率は、射出速度や樹脂の粘度に大きく依存します。
この工程のポイント:
圧力の上昇が滑らかでない場合、キャビティ内の空気が抜けていない(ベント不足)可能性があります。
適切な射出速度と金型の設計により、均一な充填を実現することが重要です。
2. 圧縮工程
射出工程が進み、キャビティ内がほぼ満たされると、樹脂が徐々に圧縮され、内圧がピークに達します。この圧縮によって、キャビティ内の隅々まで樹脂が行き渡ります。
キャビティ内圧の特徴:
内圧はピークを迎え、キャビティ全体が樹脂で満たされます。
圧力波形の頂点は、充填が完了するタイミングを示します。
この工程のポイント:
ピーク圧力が高すぎる場合、成形品にバリが発生するリスクがあります。一方、ピークが低すぎると、充填不足(ショートショット)や製品内部の空隙が発生する可能性があります。
適切な射出条件の設定が必要です。
3. 保圧工程
圧縮工程の後、保圧工程ではゲートが固化するまで一定の圧力を維持します。この圧力は、成形品が冷却される間の収縮を補償する役割を果たします。
キャビティ内圧の特徴:
保圧の開始時点で内圧は安定し、その後、ゲートが固化すると圧力が徐々に低下していきます。
波形としては、ピーク後に比較的平坦な状態を維持し、その後ゆるやかに下降します。
この工程のポイント:
保圧が不足している場合、成形品にボイド(空洞)や収縮痕が発生します。
保圧時間が長すぎると、サイクルタイムが延びるため、最適なバランスが求められます。
▸キャビティ内圧波形の解析と活用方法
波形の読み解き方
キャビティ内圧の波形は、成形プロセスの健全性を可視化したものです。以下の要点に注目すると、トラブルの早期発見や工程の最適化が可能になります。
波形の立ち上がり
樹脂がキャビティに充填される初期段階。立ち上がりが遅い場合は射出速度が不十分か、樹脂の流動性に問題があるかもしれません。
ピーク圧力
キャビティが完全に満たされたタイミング。ピークが高すぎる場合は過剰な射出圧力、低すぎる場合は充填不足を示します。
保圧フェーズの平坦性
保圧が安定していれば波形は滑らかで平坦になります。不安定な場合、保圧設定や材料特性を見直す必要があります。
トラブルシューティングの実例
ショートショット:波形のピークが低い場合、射出速度や材料温度を上げる必要があります。
バリの発生:ピーク圧力が高すぎる場合、射出圧力や保圧を適正化します。
収縮痕やボイド:保圧が不足している場合、保圧時間や圧力を調整します。
まとめ
キャビティ内圧は、射出成形の品質管理における「健康診断書」のような存在です。波形を正確に解析し、射出、圧縮、保圧の各工程で適切な条件を設定することで、成形品の品質を安定させることができます。
射出成形の最適化にはデータを活用することが欠かせません。キャビティ内圧の波形は、単なるデータではなく、あなたの成形現場をより良くするための強力なツールです。品質向上や不具合の削減に向けて、ぜひ活用してみてください!
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