自吸ポンプ活用による金型温調トラブルの改善事例
- SANKO GOSEI
- 6月16日
- 読了時間: 4分
更新日:6月27日
1. はじめに
射出成形における品質安定の鍵は、金型温調にあると言っても過言ではありません。金型温度が適切に管理されない場合、成形品にはウエルドライン、ヒケ、ショートショットといった様々な不良が発生します。とりわけ、細い冷却水管を有する金型では冷却水の流通不良が起こりやすく、それが直接的に成形不良につながります。
本記事では、熊谷工場で発生していた温調トラブルに対し、「自吸ポンプ」を導入することで改善した事例についてご紹介します。
2. 背景と課題
弊社 熊谷工場では、段替え時間の短縮を目的として「集中配管方式」を導入してきました。

集中配管は、金型のIN・OUT配管に大口径ホースをワンタッチ接続することで配管作業を簡略化できる反面、「並列回路構成」であるために流れやすいルートにばかり冷却水が流れ、逆に細い水路には十分な水が行き渡らないという課題がありました。

その結果、以下のような問題が顕著に表れました。
水が回らない金型の表面温度が上昇
ウエルド不良やレギュレーター部での平面度不良が頻発
金型昇温が遅れ、段替え時間の延長
大量不良による生産ロスの増加

特に「ケースフューエルフィルター」金型では、入れ子リング部の冷却穴がΦ4.5mm、循環管が内径Φ2.5mmという極細構造であったため、一般的なポンプでは水が十分に回らず、成形品質の著しい低下が見られました。
3. 不良の実態

品質月報のデータによると、ウエルド不良が全体不良の中で突出しており、特に11月と翌年5月には月間7000個を超える大量不良を記録しました。また、ウエルド不良の主要製品は「ケースフューエルフィルター」であり、全体の不良件数の約20%以上を占めていました。
成形不良の中でも「外観ウエルド」や「溶着面の平面度不良」が目立ち、これは明らかに金型冷却不足によるものでした。特に、金型表面温度が高くなると、樹脂が固化する前に次の流動樹脂と混ざり合い、外観に線状の欠陥(ウエルドライン)を生じることが確認されました。
4. 自吸ポンプによる改善提案
このような状況を打破するために着目したのが「自吸ポンプ」の導入です。

自吸ポンプは、一般的な循環ポンプと異なり、「吸込み能力が高く、流れにくい配管でも強制的に水を引き込む」特性を持っています。
導入にあたり、以下の観点で評価を行いました。
配管抵抗の大きな細管でも確実に循環可能か
集中配管と併用可能か
導入による立ち上がり時間短縮と不良削減効果
設置後、金型冷却水の流量は大幅に安定し、従来の冷却不良による温調トラブルがほぼ解消されました。
[金型への取付]

5. 改善結果と効果
自吸ポンプの導入により、以下のような定量的な改善効果が得られました。
指標 | 導入前 | 導入後 |
ウエルド不良数(1260ケース) | 月平均 2,800個 | 月平均 400個以下 |
金型昇温時間 | 約30分 | 約15分 |
PPT(5/10000評価) | 最大129.5 | 50以下を安定維持 |
工程内不良率 | 約0.87%~1.06% | 0.5%未満へ改善 |
さらに、改善後の製品は外観品質の安定により顧客クレームが減少し、納期遵守率100%も継続達成。工程内不良金額も半減し、年間の不良コストは100万円以上の削減効果が見込まれました。
6. 今後の展望
今回の成功事例は、「流れにくい水路への対応」を重点課題として解決した好例です。今後は以下のような展開が期待されます。
類似構造金型への自吸ポンプ横展開
温調異常時のリアルタイム監視体制の構築
成形初期段階での金型温度データロギングによる不良予兆検知
また、集中配管による利便性と、自吸ポンプによる流動安定性を両立させるための「スマート温調システム」の構想も進めており、設備・品質・作業性の三立体制の確立を目指しています。
7. まとめ
自吸ポンプの導入は、従来の「流れにくい配管は仕方ない」といった常識を覆し、確実な温調による成形不良の根本改善を実現しました。現場の課題に対して真摯に向き合い、技術的視点から原因を分析し、最適な改善策を実行する。このプロセスこそが、製造業における品質改善の真髄であると改めて実感した事例となりました。
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