改善事例:ギアプレート 品質、工程改善による活人化
- SANKO GOSEI
- 6月30日
- 読了時間: 4分
はじめに
三光合成フィリピンでは、インスタントカメラの重要部品であるギアプレートを、月間30万個という高い生産量で成形・出荷してきました。しかし、この生産工程では、品質問題の頻発と人員負担の増大という深刻な課題が顕在化していました。
今回は、ギアプレートの品質と工程を同時に改善し、人員の適正化(活人化)を実現した取り組みを紹介します。
改善の背景


ギアプレートは、シャッターボタン内部の回転部品を保持するための部品であり、寸法精度や成形品質が機能に直結します。成形にはガラス繊維強化ポリカーボネートを使用し、東芝EC130S(130トン)の成形機で8キャビ金型を用いた射出成形を行っていました。
当初、この工程では1台の成形機に3人の作業者が必要でした。39台の成形機を持つ工場の中で、3人配置が必要なのはギアプレートだけ。これにより生産性は低下し、人件費も膨らんでいました。作業負担の内訳は以下のとおりです。
ハイゲートのリワーク:35秒
検査:32秒
製品移動と運搬:15秒
キャビ分け・梱包:11秒
1サイクル(8キャビ)あたりの作業タクトは93秒で、機械サイクル(32秒)を大きく超過。結果として、1台の機械でも3人が必要という非効率な状態が続いていました。
改善目標と体制
目指した目標は明確です。

作業タクトを28.8秒以下に短縮し、1人運用を実現する。
ハイゲート不良を根本的に解消する。
全ての品質問題をゼロに近づける。
これを達成するため、プロジェクトチームを編成。工場長、プロジェクトリーダー、品質管理、生産管理が一丸となり、工程の徹底的な分析と改善に取り組みました。
主な問題の特定と解析
1. ハイゲート不良

「ハイゲート」とは、成形品のゲート部が本来より突き出して残る不良です。
調査の結果、20ショット160個中、71.25%という高い発生率が判明しました。原因は保圧条件と成形タイミングにありました。


保圧0Mpaでの成形試験ではハイゲートは消失したものの、全数にヒケが発生。最終的に2段階保圧条件を設定(第1保圧85Mpa、第2保圧45Mpa)することで、不良ゼロを達成しました。
2. 検査工程の負担

9項目の全数検査を作業者が担当していたため、検査に32秒を要していました。しかし8割以上の不良は立ち上げ時のみ発生し、量産中は安定していました。立ち上げ手順書の標準化とQAパトロール検査(3時間ごと)に切り替えることで、全数検査対象を3項目に絞り、検査時間を10秒に短縮しました。
3. キャビ分け・梱包

製品はキャビごとに分けてトレーや箱に梱包していましたが、実際には完全分離が保証されず、選別でも全数検査が必要でした。工程の意義を検討した結果、分けるメリットがないと判断し、キャビ分けを廃止。梱包作業を11秒から7秒に改善しました。
4. 製品の運搬・動作
5メートル離れた完成品置き場や、90度反転が必要な動作に多くの時間を浪費していました。作業動線の再設計、完成品エリアの移動、リワーク台撤去を実施し、作業時間を15秒から10秒へ短縮しました。
改善後の成果

改善活動により、全体として以下の結果を達成しました。
ハイゲート不良率:71.25%→0%
検査時間:32秒→10秒(−22秒)
キャビ分け時間:11秒→7秒(−4秒)
運搬時間:15秒→10秒(−5秒)
1サイクルあたり作業タクト:93秒→27秒
これにより、機械サイクル(30.5秒)と比べても十分余裕を持つ工程となり、3人配置から1人運用に移行できました。
コスト削減と効果金額
この改善による効果は定量的にも大きく、年間換算で以下の成果が得られました。
人員削減(2人活人化):約2,160万円/年(日本レート)
サイクルタイム改善:13万円/年
スペース効率化(2.3㎡圧縮):4万円/年
不良ロス低減:クレームゼロ、再作業コスト削減
トータルで年間約2,177万円のコスト効果を達成しました。
活人化の意義
単に不良削減や工数短縮を目指すだけでなく、人材の活用を最大化する「活人化」をコンセプトに据えた点が本プロジェクトの特徴です。高い負担を強いられていた3人体制から、熟練作業者1人でも安定生産が可能な体制に移行することで、人の付加価値を高め、他工程への人員シフトも可能となりました。
今後の展開
今回確立した「保圧条件最適化」と「作業標準化」のノウハウは、同じピンゲート仕様の他金型への横展開が可能です。また、金型立ち上げ時のトラブル対策を標準手順に組み込み、今後の新規型開発にも活かしていく計画です。
まとめ
ギアプレートの品質・工程改善プロジェクトは、設備条件・作業動線・検査基準・保圧設定という多角的なアプローチで取り組み、品質の安定化と効率の最大化を同時に達成しました。これにより、単なる作業負担軽減に留まらず、人材の活用と成長に繋がる「活人化」を実現したことが最大の成果です。
今後も同様の改善を他工程へ広げ、生産現場全体の高効率化を進めていきます。
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