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抗菌性向上を狙う ブラスト加工による蓮の葉模倣構造の創出

1. はじめに

医療・食品・公共空間など、清潔さが求められるあらゆる分野で抗菌技術のニーズが高まっています。従来、抗菌性能の向上には銀や銅などの金属を練り込んだ材料や、UV照射、薬剤処理といった手法が活用されてきました。しかし、これらは環境負荷やコスト、性能の持続性といった課題を抱えていました。

このような背景の中、自然界に学ぶ“バイオミメティクス”の一環として、蓮の葉が持つ「超撥水性」と「抗菌性」を人工的に模倣する試みが進んでいます。

本記事では、三光合成株式会社が開発した技術と取り組みについて、開発背景、技術内容、評価結果、今後の展望を交えながらご紹介します。


2. 開発の背景と目的

水をはじく蓮の葉

蓮の葉は、表面にナノ〜ミクロンサイズの二重の突起を持ち、それによって水を弾き、同時に汚れや菌の付着を防ぐ「セルフクリーニング機能」を発揮します。これを人工的に再現することで、薬剤を使わずに抗菌性を高める構造表面の実現が可能となります。

本技術開発の目的は、以下の3点に集約されます。

  1. 光・熱・化学エネルギーに依存しない抗菌性の実現

  2. 成形品へ微細構造を転写するためのマスターモールド設計と加工の内製化

  3. 従来のナノ突起構造よりも高い抗菌効果を持つ表面加工技術の確立


これまでの成果

 

微細構造付加のプロセス

抗菌性の効果がある微細構造を成形品に付加させるために凸形状のマスターモールドのフィルムを作成しそれをガス抜き効果を持つ金型入れ子と合体させます。

これにより凸形状の反対側の凹形状が入れ子に付与されます。

そしてその金型入れ子を使って射出成形を実施し、樹脂成形品へ形状を転写させます。

これによりマスターモールドの形状を付加させた樹脂成形品が完成します。


3. 技術概要:IEPCO処理による微細構造の創出

IEPCO処理の説明

IEPCO処理とは、微細な投射材(セラミック、金属、ガラスビーズなど)を高圧で金属表面に衝突させ、表面に粗さや凹凸を与えるブラスト加工技術です。

この処理をマスターモールドに実施し、蓮の葉と同様の「ダブルラフネス構造」―つまり、ミクロンレベルのマイクロ突起の上にナノスケールの微細構造を重ねる設計を施しました。

マスターモールドへIEPCO処理実施の様子

加工条件の工夫

以下のパラメータを複数パターンで振り、最適な加工条件を探りました。

  • 投射材の種類と粒径(30~100μm)

  • 噴霧圧力(最大0.68MPa)

  • 噴霧角度と距離(150mmなど)

  • 処理時間および表面仕上げ条件


その結果、突起の平均高さ1.0〜1.4μm、平均粗さRa 200〜376nmといった微細形状の再現に成功しました。

顕微鏡による凹凸面

4. マスターモールドから成形品へ:抗菌性の評価

作製したマスターモールドは、射出成形用の金型として実際の成形品にも転写可能です。

下記は成形品に対して抗菌試験を実施した結果になります

試験方法

  • 試験菌種:黄色ブドウ球菌、大腸菌

  • 評価方法:JIS Z2801(2012年版)に基づく抗菌試験

  • 試験体:PP成形品(微細突起あり・なしで比較)


試験結果(一部抜粋)

表面処理

大腸菌菌体数減少率(24時間後)

黄色ブドウ球菌菌体数減少率

処理なし(平面)

0%

0%

ナノ突起構造(従来)

約48%減少

-

マイクロ突起+IEPCO処理(今回)

約82%減少

約43%減少

この結果からナノ突起構造よりも高い抗菌性を示すことが確認されました。特に大腸菌に対しては顕著な効果が見られました。


5. 考察:抗菌効果のメカニズム

抗菌性向上の要因として、以下の2点が挙げられます。

菌死滅のプロセス

① 物理的破壊メカニズム

微細突起が細菌の細胞膜に直接ダメージを与えることで、物理的に死滅させる効果があります。これは、トンボやカゲロウの翅に見られる天然の抗菌作用と同様のメカニズムです。

② 隔離による「孤独死」効果

細菌が表面の凹凸構造により広く分散され、集団形成が困難になる=バイオフィルムが形成されにくくなるため、単独で死滅していく現象も観察されています。


6. 今後の展望と課題

今回の成果は試験片レベルでの成功でしたが、今後はさらに以下の展開が見込まれています。

  • 大面積への適用と再現性の確保

  • 量産性(金型寿命、コスト)の評価

  • ガス透過ハイブリッド金型との組み合わせ(SG-POROUSなど)

  • 抗ウイルス性能の評価と多菌種対応

また、抗菌効果の持続性の検証も課題のひとつです。成形品の使用状況や洗浄方法によって構造が劣化しないか、長期試験が求められます。


7. まとめ

本技術開発により、化学薬品や添加剤を用いず、構造そのものによって抗菌性を実現するという新たなアプローチが確立されました。蓮の葉の自然構造を模倣したダブルラフネス構造により抗菌性・再現性・環境負荷の少なさを兼ね備えた技術となっています。

今後、医療・食品・家庭用品など幅広い分野への展開が期待されます。まさに「自然に学び、技術で再現する」時代の幕開けとも言えるでしょう。

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