射出成形金型用:ワンタッチチャック板の開発
- SANKO GOSEI
- 6月19日
- 読了時間: 4分
~段替え作業を革新する現場主導の改善~
はじめに
射出成形現場では、段替え作業の効率化が生産性を大きく左右します。中でも、金型交換に伴うチャック板(製品取出し用治具)の交換は、内段取りとして成形機を停止させなければならない重要な工程です。従来、チャック板の交換には複数のボルト締結やエアー・電気配線の差し替えが必要で、段替え時間の増加や作業ミスを誘発する原因となっていました。
そこで弊社 熊谷工場では、従来の構造を見直し、誰でも簡単・迅速に交換できる「ワンタッチチャック板」の開発に取り組みました。本記事では、その開発背景から設計、実装、そして得られた効果について紹介します。
チャック板とは?

チャック板とは、金型から成形品を取り出す際に使用する治具であり、成形品ごとに専用で作成されています。製品を吸着・把持するための吸着パッドやシリンダー、製品検知センサーなどが装着されており、段替え時には金型と同時に交換されます。
開発の背景と目的
1. 段替え時間の短縮
チャック板の交換には、ボルト4本の取り外し・締結に加え、電気およびエアー配管の手動接続が必要でした。これにより、段替え時間が長引き、内段取りの比率が高まり、生産効率に悪影響を及ぼしていました。
2. チャック板製作の簡易化・コストダウン
従来、ワンタッチ交換機構を備えたメーカー製品は存在するものの、厚みが増す・高コスト・電気とエアーのワンタッチ化が不十分といった課題がありました。特に厚みが増すことで、金型のストローク不足により装着不可能となるケースもありました。
開発のポイント
1. 薄型構造の採用

社内調査の結果、既存のチャック板の厚みでは、取出機の動作可能範囲が限られていることが判明。とくに、フルストロークを使い切るような金型では、厚みのある市販品は装着不可でした。そこで、セーラー万年筆方式の14mm厚構造に着目し、薄型化を実現。メーカー品に比べて最大24mmの薄型化に成功しました。
2. 電気・エアー配線のワンタッチ接続

社内で図面を作成し、エアー配管と製品検知の電気センサーも含めて、全てワンタッチで接続可能な機構を設計。従来は別々に差し込みが必要だった配線類が、板の嵌合一つで完了するため、ミスやチョコ停のリスクも低減しました。
3. ハンドル式ロック機構

プレートの装着は「①ハンドル開く→②チャック板を合わせる→③ハンドル閉める」の3ステップ。誰でも素早く確実に交換できるシンプルな設計により、作業者の技能差に関わらず品質とスピードを両立しました。
4. 社内標準化と横展開
ユーシン精機・スター精機など、取出機の機種によって異なる取付ピッチにも対応できるよう、ミスミ品等を活用した社内標準プレート構造を採用。現在では27台中21台の成形機で展開が完了し、今後も拡大を見込んでいます。
トラブルと改善
★ゴムパッキンの抜け落ち問題

試作段階では、エアー流通時にパッキンが抜け落ちてしまう問題が発生。原因は、ストレート穴+ストレート形状パッキンの採用にありました。

これに対し、穴形状とパッキンを段付き構造に変更することで、嵌合時の保持力が向上し、エアー漏れも完全に防止されました。
得られた効果
1. 作業時間の大幅短縮
従来5分かかっていたチャック板交換が、わずか10秒で完了するように。ランナーチャック位置の調整も不要となり、段替えの一貫性・再現性も向上しました。
2. 年間コスト削減効果(試算)
チャック交換時間短縮:年間99万円
エアー配管誤差によるチョコ停削減:1.4万円
チャック板製作工数の削減:約57万円→ 年間トータル削減額:157万円
3. 安全性と品質の向上
作業者の負荷軽減・誤配線の防止・段替えミスの削減により、安全性と製品品質の安定性が向上しました。
今後の展望
現在は中型成形機15台分に対し、100枚のワンタッチチャック板が稼働中。今後は、交換頻度が少ない小型・大型成形機への展開も検討し、現場全体の作業標準化とさらなる効率化を目指していきます。また、改善内容を動画化して社内教育にも活用する予定です。
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