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マレーシア現地立ち上げ ― オートビジネスによる事業再建

三光合成グループの海外拠点であるSTSは、1987年に設立された同社初の海外拠点として長い歴史を持つ会社である。しかし、シンガポールの製造拠点を失った後は、マレーシアで家電向けビジネスを中心に事業を継続していたものの、業績は長年低迷し、会社の存続すら危ぶまれる状況に陥っていた。こうした危機的状況の中で、STS再生の切り札として選ばれたのが自動車部品ビジネスへの参入である。

本記事では、マレーシアにおけるオートビジネスの立ち上げと、それによってSTSがどのように再建されたのかを紹介する。


オートビジネスへの挑戦

STSが自動車部品事業を立ち上げるにあたり、まず直面したのは「新規受注」であった。マレーシアの自動車メーカーであるプロデュア(Perodua)は半国営企業であり、通常はマレーシア系企業(ブミ企業)の部品メーカーにしか発注しないという慣習がある。外資系企業である三光合成の現地会社STMは、通常であれば受注が極めて困難な立場にあった。

プロデュア ALZAのコンソール部品

しかしプロデュアは、新型車ALZAに本格的なコンソール(アームレスト付きセンターコンソール)を採用したいと考えていたものの、マレーシアにはその製品設計を行える部品メーカーが存在していなかった。そこで三光合成は、単なる部品供給ではなく**「技術営業」**という形で提案を行った。

三光合成は日本の滋賀工場などで同様のコンソール部品を国内メーカーに量産した実績があり、

  • 製品設計ができる

  • 金型製作ができる

  • 生産技術力がある

という総合的な技術力をアピールした。その結果、STMはコンソール部品のTier1サプライヤーとして採用され、13面の金型を用いる大型プロジェクトを受注することに成功した。


製品設計段階の課題

受注後の次の大きな課題は、マレーシアの自動車メーカーと連携して製品設計を進めることであった。しかし当初、WEB会議でのコミュニケーションは非常に困難であり、顧客の要求を正確に理解することが難しい状況だった。

この問題を解決するため、STMのエンジニアを**「ブリッジエンジニア」**としてプロデュアへ駐在させ、日本の開発チームと顧客をつなぐ体制を構築した。また、日本側の設計リソース不足を補うため、外部設計会社を活用することで開発スピードを確保した。

さらにコンソール部品の設計では、

  • 強度解析

  • 動作部品の機構設計

  • 組立性検討

  • 外観品質(隙・段差)確認

  • 材料選定

  • 図面作成

など多くの検討項目があり、駐在エンジニア1名だけでは負担が非常に大きかった。そこで日本のR&Dチームや他部品メーカーの設計者とも連携し、情報共有と役割分担を明確にすることで短納期開発を実現した。


日本での生産準備

製品設計が完了すると、日本での生産準備段階に入った。しかしこの時期は新型コロナウイルスの流行期であり、海外顧客との対面での打ち合わせがほぼ不可能な状況であった。

そこで、成形トライ結果や試作品、測定データなどをすべてリモートで共有する体制を構築した。

リモート会議の様子

品検会では、検具に部品を載せた状態をカメラで映しながら説明するなど、遠隔でも問題点を共有できる仕組みを導入した。

一方で、コンソール部品はヒンジ機構やロック機構などの動作部品を含むため、品質調整は非常に難しい。ロック機構の噛み合わせ不良やヒンジ精度の問題、外観品質のバランスなど、様々な課題が発生したが、若手エンジニアが主体となって金型修正や設計調整を行い、問題を一つずつ解決していった。


マレーシア現地での量産立ち上げ

最後の関門は、マレーシアでの量産立ち上げである。しかし当時、三光合成にはマレーシアに自動車部品の生産拠点が存在しなかった。そこでプロデュアの紹介を受け、現地モールダーであるAHP社へ生産を委託することになった。さらにAHP工場内にSTMの事務所を設立し、品質管理や生産管理を行う体制を整えた。

AHP社へのオフィス立ち上げ

量産開始直前には、納品用の台車が発注されていないことが発覚するというトラブルも発生したが、日本の滋賀工場の台車設計図を取り寄せ、現地メーカー4社へ同時発注することで短期間で対応した。

台車の設計

また量産開始後には、生産数量の不足や品質問題が多発したが、日本からの技術支援メンバーと協力して組立ラインや物流を改善した。その結果、

  • 作業人数:9人 → 6人(33%削減)

  • 生産能力:1日200個増加

という大きな改善を達成することができた。

さらにコンソール部品は、樹脂成形、塗装、板金、メッキ、革巻きなど複数の工程が必要な複合部品であるため、サプライチェーンと物流体制の構築にも大きな苦労があった。しかし現地スタッフと日本チームが協力し、最終的には安定した量産体制を確立した。


プロジェクトの成果

このプロジェクトの成果は非常に大きかった。オートビジネスの成功によりSTSは安定した利益を確保できるようになり、2022年には13年ぶりの配当を実現した。さらに翌年も連続して配当を行うなど、経営状況は大きく改善した。

また、このプロジェクトを通して多くの若手エンジニアや現地エンジニアが成長した。設計・生産準備・現地立ち上げの各段階で中心人物が交代する場面もあったが、その経験が次世代の技術者を育てる結果につながった。


今後の展開

コンソールの成功を受け、プロデュアから次世代モデルのコンソールの受注も決定した。

さらにこのモデルはトヨタマレーシアでも生産される予定であり、STMはマレーシアにおいてトヨタ様のTier1サプライヤーとしての口座開設にも成功している。

今回のプロジェクトは、単なる製品開発ではなく「海外拠点の再生」を実現した取り組みであった。技術力を軸とした営業活動、国境を越えた開発体制、現地との協力による生産改革が結びつき、三光合成グループの新たな成長基盤を築くことができたと言える。

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