シボ製品へのINS溶着ホーンと受治具材質の選定
- SANKO GOSEI
- 7月15日
- 読了時間: 4分
はじめに
近年、自動車の静粛性や断熱性能の向上を目的に、エンジンカバーやアンダーカバーへ吸音材(INS:3Mシンサレート)の搭載が進んでいます。しかし、その一方で課題となっているのが「シボ(艶消し)表面を有する製品」への溶着処理です。
シボ面は表面処理が特殊であり、超音波溶着の条件によってはスレや溶け出しが発生しやすく、外観品質に大きな影響を与えます。本記事では「シボ面を持つ製品へのINS溶着」において、ホーン形状および受治具材質の最適化を図る取り組みとその成果についてご紹介します。
開発背景と目的
本案件は、自動車メーカー様向け製品にINS(3M製シンサレート)を溶着するというもので、しかも対象製品にはシボ面がありました。通常、INSの超音波溶着では、溶着部に「補強座面(ボスや肉厚部)」を設けて溶け出しを抑えるのが定石です。しかし今回の製品では、HGT設計上「吸音面積の確保」が優先され、溶着部に補強構造が設けられないという制約がありました。

つまり、「溶着時の熱が直接シボ面に伝わるリスクがある状態」で、確実に溶着を行う必要があったのです。この前例のない条件の中で、「溶着強度と外観品質の両立」を実現するための、最適なホーン形状と受治具の材質を選定する必要がありました。
試験方法と選定項目
超音波ホーンは溶着されるプラスチック部品に最適な周波数と振幅を供給する共鳴体です。

①ホーン形状のバリエーション
群馬工場では、以下の7種類のホーン形状を新規または既存より選定し、検証を行いました

TYPE A:φ13 アヤメローレット(Pt0.5, C0.5)
TYPE B:φ9 アヤメローレット(Pt0.5, C1)
TYPE C:φ8 深アヤメローレット(Pt1, C1)
TYPE D:φ14 カシメ用
TYPE E:φ6 ドーム形状
TYPE F:φ10 フラット(C0.2)
TYPE G:φ10 十字形状(新規製作)
②受治具の材質候補
同様に、以下の12種類の素材で受治具を製作し、それぞれホーンとの組み合わせで検証を行いました
アルミブロック、ナイロン、ジュラコン、不織布、発泡ウレタン、ゴムコルクシート、マウスパッド、シリコンパッド、ゴム、耐震ゴム、シリコンゴム、合板(木)
それぞれ「引張強度30N以上」の溶着強度を基準に、かつ「シボスレ・溶け出し」が発生しないことを条件に評価されました。
検証結果と考察
・ホーンの評価

溶着強度と外観への影響を総合的に判断した結果、最も良好なバランスを示したのは**TYPE G(十字形状)**でした。エネルギーを分散させやすい設計となっており、40J~80Jの広範な範囲で安定した溶着が可能です。TYPE AやFも条件によっては使用可能でしたが、TYPE B~Eではエネルギーが一点に集中しすぎ、裏面のシボ面にスレや溶け出しが確認されました。
特に注目すべきは、TYPE Gを使用した際の溶着部断面。シボスレなし、溶け具合も良好で、外観品質の面でも十分に合格点となるものでした。

・受治具材質の評価

12種の材質を検証した結果、ゴムコルクシートが最も有効であると確認されました。不織布もある程度の効果は見られたものの、厚みと定期的なメンテナンスが必要でした。
反対に、アルミやナイロン、ジュラコンなどの硬質材料では、溶着時のエネルギーがダイレクトにシボ面へ伝わり、スレや表面溶けが頻発。不適合と判断されました。
受治具は最終的に「ワーカブル樹脂+ゴムコルクシート(t=2.0)」の構成が採用されました。
量産試験と実績
選定されたホーン(TYPE G)および受治具を用いて量産に投入された結果
54,000台を生産のうち、不良ゼロを達成しました。
溶着条件は50Jで設定。ばらつきを考慮しながら、引張強度35~50Nが得られるよう管理。CP値も「2.2」と高く、工程能力としても十分な水準に達していると評価されました。
次モデルへの展開
今回得られたノウハウは、スピーカーカバー(シボ面製品)にも展開され、こちらも「ゴムコルク+カシメホーン」で対応可能と判断されています。
このように、実証済みの技術選定は、異なる製品・形状へも柔軟に応用できる点が最大の強みとなっています。
まとめと今後の展望
シボ面に対するINS溶着は、「外観品質」と「溶着強度」という相反する要素のバランスが非常に難しい技術です。弊社では、ホーンと受治具を組み合わせた実証的な評価により、確実な溶着と美観維持の両立を実現しました。
本検証の成功は、現場の知見とメーカー様との連携(精電舎電子工業製ホーンの採用)による成果であり、今後さらに多様化する部品設計においても重要な指針となることでしょう。










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